Power over Ethernet(9)802.3bt(PoE++) – 規格化 / システム構成

802.3bt 規格化

最初の IEEE PoE 規格 802.3af ではデバイスに 13ワットの電力を供給し、 2番目の 802.3at では約 2倍の 25.5ワットが供給できるようになった。最新の 802.3bt では、更に約 3倍の 71.3ワットに給電能力をアップしている。

これら 3つの規格は基本的に下位互換があり相互に運用できるが、制限もある。新しい高電力 PD(受電装置)は、従来の低電力 PSE(給電装置)からは必要十分なフル電力を得られない。電力レベルは「クラス」として規定されているが、従来規格(802.3af/802.3at)ではこのクラスは 0~4 の 5クラスあり、PD に最大 25.5ワットの給電能力がある。新しい 802.3bt 規格では新たに 4つのクラスを拡張し、更に給電能力を増強している。新たに定義されたタイプ3 PD では 51ワット、タイプ4 PD では 71.3ワットの電力消費が可能になった。

高い給電能力は、撚対線の全ペア(4ペア)を給電に使用することで実現している。従来規格(802.3af/802.3at)の PSE は撚対線の 2ペアのみで給電を行うが、新たに制定されたクラス5 以上では 4ペア給電が必須のため、従来規格 PSE では対応できない。新しい 802.3bt 規格のタイプ3/タイプ4 PSE は従来規格(802.3af/802.3at)の PD もサポートしている。もちろん、従来規格の PD は 2ペア給電のため、4ペア給電を行うことはない。ここで、注意が必要なことは、 802.3bt 規格のタイプ3/タイプ4 PD にクラス1~4 の低電力給電を行う場合は、4 ペア給電が可能だ。高い給電能力を持つ 802.3bt 規格の PSE/PD 間でクラス1~4 の低電力給電を行うことに違和感を覚えると思う。しかし、802.3bt 対応の Ethernet スイッチに多数の PD が接続されると、PD が要求する電力を供給できない場合がある。このような場合は、PD の要求を下回るクラス1~4 の電力を供給するためだ。この動作を「降格」と呼ぶ。降格については、後程解説する。各クラスの PSE 給電と PD 受電の関係は「図1 クラス別給電」を参照いただきたい。

図1 クラス別給電
図1 クラス別給電

従来規格(802.3af/802.3at)で規定されていた「クラス 0」は、802.3bt では廃止されている。802.3af/802.3at の名称「Data Terminal Equipment (DTE) Power via Media Dependent Interface (MDI)」は、 802.3bt では「Power over Ethernet」と改称された。この段階で、IEEE の規格と広く普及している用語との整合が取れた。

802.3bt 規格検討時には、10GBASE-T の普及が始まっていた。10GBASE-T と PoE の併用でエラー率の悪化が懸念されたが、特に問題は発生しなかった。2.5GBASE-T/5GBASE-T/10GBASE-T が 802.3bt のサポート対象に加えられている(図2 Ethernet / PoE 規格化時期)。

図2 Ethernet / PoE 規格化時期
図2 Ethernet / PoE 規格化時期

802.3bt では、PD に最大 51ワットの電力供給をサポートするタイプ3、最大 71.3ワットの電力供給をサポートするタイプ4 の 2つの新しいタイプが導入された。タイプ3 は、PD への電力供給を従来の 2倍に増やし、既存の標準をアップグレードし置き換える規格だ。タイプ4 は高電力タイプで、PD に 51ワット以上の電力を供給するため、新たに追加された規格だ。タイプ4 PSE は最小出力電圧が高く、高電力レベルの供給に必要な電流を減らしている。

再度、「図1 クラス別給電」をご覧いただきたい。802.3bt タイプ3 の最初の 4つのクラス(クラス1~4)は従来規格(802.3af/802.3at)のタイプ1 とタイプ2 と全く同じだ。2 ペア給電を行うことで完全な互換性がある。更に、802.3bu 対応の PD では、すべてのクラス(クラス1~クラス8)に 4ペア給電を追加している。802.3bt は従来規格との下位互換性(backwards compatibility)を維持しつつ、従来規格( 802.3af/802.3at)を統合している。

図1 クラス別給電
【再掲】図1 クラス別給電

各タイプと給電クラスの対応は「表1 クラスとタイプ」、各 PoE 規格の位置づけとは「表2 PoE 規格一覧」を参照いただきたい。すべてのクラスで下位互換性を確保し、4ペア給電を持ち込んでいる。PSE の給電電圧は少し高くなっているが、従来規格の範囲内だ。撚対線は、CAT-3/CAT-5 が廃止され CAT-5e 以上に変わったが、これも規格の範囲内だ。もう一つの変更点は、クラス0 の廃止だ。

表1 クラスとタイプ
表1 クラスとタイプ
表2 PoE 規格一覧
表2 PoE 規格一覧

802.3bt システム構成

PoE(Power over Ethernet)システムは、電力を供給する PSE(Power Sourcing Equipment)、電力を消費する PD(Powered Device)と両者を接続するリンクセクション(撚対線)で構成される。「リンク セクション」は、PSE を PD に接続するケーブルを表す 802.3 用語だ。PSE は自分自身の電源(AC100V 等の商用電源から自身の動作電圧を作る)で動作し、リンクセクションを介して PD への電力供給と電力管理を行う。 PD は リンクセクション経由で電力を供給されるため、独自の電源配線は必要ない。

PD に必要な電力は装置により異なる。PSE は PD に必要な電力を給電前に確認し、電力クラスを確定した後に給電を行う仕組みを備えている。 PSE と PD の間にあるリンクセクションには直流抵抗に応じた「電圧降下」 「電力損失」や「発熱」がある。これらを考慮した給電側の「電圧」 「電力」や受電側の「電圧」 「電力」等が規定されている。「図3 PSE と PD 接続例」は、 1000BASE-T でリンクセクションが CAT-5e を想定した例だ。

図3 PSE と PD 接続例
図3 PSE と PD 接続例

802.3bt も従来規格同様 Alternative A/B の 2つの給電方式がある。Alternative A は 1/2 & 3/6 ペア、Alternative B は 4/5 & 7/8 ペアで給電を行う。これも変更はない。しかし、1000BASE-T などの 4ペアを全てデータ通信に使用する方式も対象とするため、「データ通信ペア」 「空きペア」の概念は適用できない。給電方式を PSE では Alternative A/B 、PD では Mode A/B と呼ぶが、これも従来と変わらない。給電方式の概要は「図4 PoE 給電インタフェース」、信号配列は「表4 PoE ピン配列」を参照いただきたい。

図4 PoE 給電インタフェース
図4 PoE 給電インタフェース
表4 PoE ピン配列
表4 PoE ピン配列

電力供給を行う PSE には 2つの構成方式がある。PoE 対応 Ethernet スイッチが電力を供給する「エンドポイント PSE」と、PoE 非対応 Ethernet スイッチと PD 間で電力を供給する「ミッドスパンPSE」だ。この 2つの構成方法は 802.3af から始まり、802.3bt でも継承されている。「図5 1000BASE-T エンドポイント」は、「エンドポイント PSE」の構成例、「図6 1000BASE-T 対応ミッドスパン」は「ミッドスパン PSE」構成例だ。

図5 1000BASE-T エンドポイント
図5 1000BASE-T エンドポイント
図6 1000BASE-T 対応ミッドスパン
図6 1000BASE-T 対応ミッドスパン

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。