符号化
物理層の基本機能は、1と0で表現されるデジタルデータを電気信号に変換しケーブルに流すことだ。最も簡単な変換は、「1」を電圧のハイレベル(例えば5V)に、「0」を電圧のローレベル(例えば 0V)に変換すれば、信号を送ることができる。この変換方式として NRZ(Non Return to Zero:非ゼロ復帰)符号がある。イーサネットは「埋込クロック同期」方式を採用しているため、受信データからクロックを抽出する必要がある。クロックを抽出し CDR(Clock Data Recovery)を正しく動作させるためには、一定期間内に必ずデータ信号を反転させる必要がある。残念なことに NRZ 符号は、「0」や「1」が連続するとデータの反転がなくクロックを抽出できない(図1 NRZ 符号)。

そこで、10BASE5/2/-T はデータのビット毎に必ず信号が反転する「マンチェスタ符号」を採用した。マンチェスタ符号は、図1 の様に基準クロックサイクル内で低から高への変化(立上り↑)で「1」、高から低への変化(立下り↓)で「0」を表す方式だ。この方式は送信信号にクロックが含まれるため、CDR (Clock Data Recovery)も容易に実現できる。「1」と「0」もほぼバランスが取れるためランレングス問題も発生しない。また、マンチェスタ符号の最高周波数は「1」か「0」が連続したときに発生する。この周波数はビットレートと同じ 10MHz になる。マンチェスタ符号は別名 1B2B 変換とも呼ばれる。1ビットを2ビットに変換する方式のため、信号の生成に最高周波数の2倍のクロックが必要なため高速処理に向かない欠点がある。
媒体(ケーブル)の許容周波数は表1 を参照いただきたい。当時、10BASE-T 用に設定された カテゴリ3 UTP ケーブルの最高周波数は 16MHz で 10BASE-T の最高周波数(10MHz)をカバーしている。もちろん、カテゴリ4 以上のケーブルを使用することもできる。現時点で カテゴリ2 ~ カテゴリ4 ケーブルはほぼ入手できず、カテゴリ5 以上のケーブルしか入手できない状態だ。

また、マンチェスタ符号化された信号は直流成分にデータは依存せず、信号の立上りと立下りの変化だけが意味を持っているため、AC結合にも適応できる。パルストランスで直流分をカットする「AC 結合」方式のイーサネットに好都合だった。
埋込クロック/AC 結合動作要件
- 一定期間内でのデータの反転
- 「0」と「1」のバランス
- 媒体の許容周波数以下
マンチェスタ符号
マンチェスタ符号(Manchester coding)は、マンチェスタ大学で磁気媒体記録用に開発された。かつて、1600bpi(bit per inch)の磁気テープ(オープンリール)で広く使われた方式だ。磁気テープではマンチェスタ符号とは呼ばず位相符号化(PE:Phase Encoding)方式と呼ばれた。1600bpi の 磁気テープは既に市場からなくなったが、現在でも RFID 等で使われている方式だ。マンチェスタ符号の送受信回路は比較的単純で実装も容易だが、伝送速度の2倍のクロックが必要になり高速化に向かないため 100Mbps 以上ではマンチェスタ符号を採用していない。
マンチェスタ符号の動作は次のような原則に従って動作している。イーサネットのデータ表現は周期中央での立上りで「1」、立下りで「0」だが、逆に立ち上がりで「0」立下りで「1」を表現する方式もあるので注意が必要だ。
マンチェスタ符号の動作(イーサネット)
- 各ビットは固定周期で送受信(10MHz)
- 周期中央でのレベル変化で「1」「0」を表現
- 立上りで「1」、立下りで「0」
- 周期開始時のレベル変化に意味がない
- 信号レベルの High/Low にも意味はない
イーサネットの物理層
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2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(1)概要・物理層のトレンド・物理層基礎技術
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パラレル通信とシリアル通信 コンピュータ間通信方式はパラレル通信とシリアル通信に大別することができる。パラレル( parallel:並列)通信は、複数データを並列に同時送信するため高速通信が可能だが、複数のデータ線が必要 […] -
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イーサネットの物理層(3)物理層基礎技術 クロック同期方式 共通クロック(Common Clock)同期 / 送信元クロック(Source Clock)同期
共通クロック(Common Clock)同期 プリント基板内での半導体デバイス間同期や、比較的低速な PCI などのパラレルバスで使用されている方式だ。歴史も古く事例も多い。名前のように送信側と受信側が、共通クロックに同 […] -
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埋込クロック(Embedded Clock)同期 「埋込クロック同期」は、送信データに送信クロックを埋め込む方式だ。受信側は受信データからクロックを抽出しデータを読み込むマスタークロックとして使用する。送信元クロック同期 […] -
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イーサネットの物理層(5)物理層基礎技術 DC結合・AC結合
装置間、基板間や基板内回路の電気信号接続には2つの方法がある。直流成分を送ることができる「DC 結合」と、直流成分をカットして交流成分のみを送る「AC 結合」がある。直流成分の除去にはコンデンサやパルストランスを使用する […] -
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イーサネットの物理層(6)全体階層構造
Ethernet TSN は第2層(データリンク層)を主に機能強化している。同時に、車載ネットワークを意識した第1層(物理層)にも新たな規約を策定した。車載ネットワークでは省スペースと重量削減が大きな課題で、これに対応す […] -
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イーサネットの物理層(7)xMII
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イーサネットの物理層(8)MIIのデータインターフェイス/管理インターフェイス
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イーサネットの物理層(9)xMII RMII / GMII
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イーサネットの物理層(10)xMII RGMII / SGMII
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イーサネットの物理層(11)物理層規格の概要
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イーサネットの物理層(13)個別規格 10BASE5/2/-T 符号化/マンチェスタ符号
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イーサネットの物理層(14)個別規格 100BASE-TX
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イーサネットの物理層(15)個別規格 100BASE-TX 4B5B変換 / Parallel to Serial 変換
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イーサネットの物理層(17)個別規格 100BASE-FX
100BASE-FX 100BASE-FX は、1995年に IEEE802.3u で標準化された。光ファイバーを伝送路として2本のファイ バーケーブルを使用する。信号源に1300nm波長帯を使い、マルチモードファイバー […] -
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イーサネットの物理層(18)個別規格 1000BASE-T 概要
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イーサネットの物理層(19)個別規格 1000BASE-T 物理層 / 8B1Q4/4D-PAM5 / スクランブラ
1000BASE-T 1000BASE-T 物理層 1000BASE-T は 8ビット幅を持ち 125MHz(8ナノ秒サイクル)で動作する GMII で上位層と繋がっている。つまり、1000BASE-T の物理層は、8ナ […] -
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イーサネットの物理層(20)個別規格 1000BASE-T 畳み込み符号 / 4D-PAM5 符号 / フレーム構造
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イーサネットの物理層(21)個別規格 1000BASE-X 概要
伝送媒体に光ファイバーを使用する 1000BASE-X は、撚対線を使用する 1000BASE-T より1年早く1998年に標準化を完了している。同時にギガビットイーサに対応する GMII の標準化も完了した。1000B […] -
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イーサネットの物理層(22)個別規格 1000BASE-X 8B/10B 符号化 / 8B10B 変換
8B/10B 符号化 10ビットデータに変換する際に、 1/0 連続数を制限し確実な信号反転を発生させることと 1/0 個数の差を制限制限範囲内に収める必要がある。1/0 連続数制限は、1/0 の連続数が 4 個以内に収 […]