Power over Ethernet(4)802.3af(PoE) 給電方式 / 給電制御

802.3af 給電方式

Alternative A/B

PoE は 2対の撚対線で給電を行う。1対には正電圧、他の 1対には負電圧をかける方式だ。802.3af には 2つの給電方式がある。データ通信と電力供給で同じペアを共有する「Alternative A」と、10BASE-T/100BASE-TX では通信に使用しないペアを電力用に使用する「Alternative B」がある。 PSE はいずれか一方を、PD は両方に対応する必要がある。「表1 PoE ピン配列」は Alternative A/B が使用するペア配列と、10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-T の信号配列だ。 802.3af では、 10BASE-T/100BASE-TX には対応しているが、1000BASE-T には対応できていない。

表1 PoE ピン配列
表1 PoE ピン配列

Alternative A/B は PSE 側の呼び方で、PD 側では Mode A/B と呼ぶ(図1 PoE 給電インタフェース)。

図1 PoE 給電インタフェース
図1 PoE 給電インタフェース

Alternative A

2ペアが未使用で空きになっている 10BASE-T/100BASE-TX を例に説明したい。 Alternative A は、撚対線を 2ペア使用し、パルストランスのセンタータップ経由で、データ通信用の 2つのペア(1/2、3/6)を介して給電する図2 Alternative A 給電)。10BASE-T/100BASE-TX は差動信号方式で、ペア(1/2、3/6)間の電位差でデータの「1/0」を判定するため、直流電圧が印加されても「基本的」には影響がない。電力はパルストランスのセンタータップ(電圧中点)を介して送る仕組みだ。

PSE 側は 空きペア(4/5、7/8)には何も接続させず、PD 側はデータペアの(1/2、3/6)と空きペア(4/5、7/8)の両方に繋がっている。

図2 Alternative A 給電
図2 Alternative A 給電

Alternative B

「Alternative B」では、PSE 側のデータペアの(1/2、3/6)には接続せず、予備(未使用)の 2つのペア(4/5、7/8)を介して直接給電される図3 Alternative B 給電)。 PD 側は、「Alternative A」と同様にデータペアの(1/2、3/6)と空きペア(4/5、7/8)の両方に繋がっている。

図3 Alternative B 給電
図3 Alternative B 給電

エンドポイントとミッドスパン

電力供給を行う PSE には 2つの構成方式がある。Ethernet スイッチが電力を供給する「エンドポイント構成」と、Ethernet スイッチと PD の間で電力のみを供給する装置(インジェクタとも呼ぶ)を挟む「ミッドスパン構成」だ(図4 エンドポイントとミッドスパン)。

PoE 機能を内蔵する Ethernet スイッチが「エンドポイント」に相当する。「Alternative A」方式または「Alternative B」方式で電力を供給する。 「図3 Alternative A 給電」と「図3 Alternative B 給電」は、エンドポイントの例だ。PoE 非対応のスイッチで PoE 機能を追加する構成を「ミッドスパン」と呼び、この装置を「インジェクタ」と呼ぶ。

図4 エンドポイントとミッドスパン
図4 エンドポイントとミッドスパン

ミッドスパン/Alternative A

「Alternative A」構成のミッドスパンは「図5 ミッドスパン「Alternative A」構成」の様に、ミッドスパン(インジェクタ)のパルストランスのセンタータップを介して電力を供給する。

図5 ミッドスパン「Alternative A」構成
図5 ミッドスパン「Alternative A」構成

ミッドスパン/Alternative B

「Alternative B」構成のミッドスパンは「図6 ミッドスパン「Alternative B」構成」の様に、ミッドスパン(インジェクタ)の空きペアを介して電力を供給する。

図6 ミッドスパン「Alternative B」構成
図6 ミッドスパン「Alternative B」構成

給電制御

PSE

PSE は電力を供給し、PD は電力を受け取り消費する。PSE は PD の特性を調べ(シグネチャ処理)、適切であれば給電を行い不適切であれば電力を供給しない。この処理を適切に行うためには、プロッセッサ等が PoE プロセスを制御する必要がある。シグネチャ処理の基本的な考え方は、PD が PoE 規格への適合を示す 25KΩ 抵抗を実装していることを PSE が確認することだ。 PSE が適正な PD か否かを判断する「シグネチャ処理」は次のような手順だ。「図7 PSE 回路例(Alternative A) 」は、Alternative A の PSE 給電回路例だ。

図7 PSE 回路例(Alternative A)
図7 PSE 回路例(Alternative A)
PDチェック

テスト電圧の印加またはテスト電流を流すことで、PD の抵抗値が規定範囲内( 25KΩ±5%)で「対象 PD」と認識

電力クラス分類

テスト電圧を印加し消費電流値で電力クラスを判定

電力供給

クラス分類に従い電力を供給

モニタリング

電力クラスの最大電力範囲内で電力を供給し監視を継続

切断

PD とのリンク切断、または過電流で給電停止

PD

「図8 PD 回路例」は PD 受電回路のブロック図だ。PD 受電回路は、データペア(1/2 & 3/6)と予備ペア(4/5 & 7/8)の両方に接続されているが、いずれか一方から受電する。802.3af では、同時に両方から受電することを想定していない。

図8 PD 回路例
図8 PD 回路例

通信データはパルストランスを介して PHY(物理層)回路に伝わる。Alternative A 方式では、電力はデータペアのパルストランス中間タップから取り出される。Alternative B 方式では、信号のない予備ペアから直接取り出される。何れの方式もデータ通信に影響を与えず電力を取り出すことができる。

PD にはシグネチャ回路に 25KΩ の抵抗があり、規定電圧(または電流)を短時間かけることで PD の 802.3af への適合/不適合を判定することができる。この時点では FET スイッチが遮断されていて PD 駆動電源が動作していないため、PD への影響はない。抵抗の前段に整流用のダイオードブリッジが配置されているため、適合/不適合の判定への影響を考慮する必要がある。802.3af ではAlternative A/B 2つの電力源に対し、シグネチャ回路は 1つしかない。 Alternative A/B の 2つの方式の同時接続(競合)が発生すると正しく動作しないため、競合を回避するバックオフ手順があり、 Alternative A の優先度が高く設定されている。

PD 各部の動作概要

ダイオードブリッジ
802.3af では、データペアと予備ペアの入り口にそれぞれダイオードブリッジを配置する必要がある。PD はAlternative A/B の両方に対応し、電力の極性反転にも対応しなければならない。PSE/PD 間は一般的に「ストレートケーブル」で接続するが、「クロスケーブル」で接続することもある。「ストレートケーブル」と「クロスケーブル」では、データペア/予備ペアともにペアが入れ替わるため電力の極性反転が起きる。ダイオードブリッジはシグネチャ抵抗(25KΩ)の前段になるため、PSE でのシグネチャ抵抗値判定に影響がある。
Signature
Signature には 25KΩ の抵抗がある。PSE はこの 25KΩ の抵抗値を検出することで、802.3af に適合する PD を認識している。PSE 非対応装置では、 25KΩのシグネチャ抵抗は実装されていない。PSE には 2つの抵抗値測定方法ある。一つは、は電圧をかけ電流を測定する方法で、もう一つは逆に電流を流し電圧を測定する方法だ。何れの方法も 2地点で測定し「勾配」を求めることで抵抗値の判定を行う。Signature の前段にダイオードブリッジがあり電圧が降下するため 1地点での絶対値測定ができないため 2地点で測定し「勾配」で判定する方法を採用している。抵抗値が規格範囲外の場合は電力を供給しない。
Classification
規格への適合・不適合を判定する「Signature」に引き続き、供給電力クラスの判定を行う。ここでは低い電圧を短時間かけ、消費電流を測定することで電力クラス判定を行う。802.3af の判定回数は 1回だが、電力クラスが増える 802.3at と 802.3bt では複数回に変わる。
Isolation
PoE 給電と Ethernet 機器電源の分界点になる。「Signature」と「Classification」が正常終了したところで FET スイッチを on にし、DC/DC コンバータへの電力供給を開始する。
DC/DC
DC/DC コンバータは、PSE から供給された 37~57Vdc 入力を PD(受電装置)に必要な動作電圧に変換する。PD 回路の負荷に相当する。

「表2-5 PD 要件一覧」は、IEEE802.3af で規定される PD の各種パラメータリストだ。

表2 PD 要件一覧
表2 PD 要件一覧

 

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。