2003年6月に最初の Power over Ethernet(PoE)規格として 802.3af が登場した。PoE は、WiFi ルータ、IP 電話や IP カメラ等に採用され急速に普及した。特に WiFi ルータの高機能・高性能化により、従来の 12.95ワットを超える電力を PD(受電装置)に供給する必要性が高くなった。そこで、IEEE は新たな規格として従来の約 2倍(25.5ワット)の給電能力を持つ 802.3at を 2009年9月に制定した。 2経路からの給電により更に 2倍(51ワット)の電力を可能にする方法も提案されたが、規格化には至っていない。2経路での給電には、PD 回路を 2個持つ「デュアルシグネチャ」の概念が必要だが、この時点では対応できていない。 2経路の給電規格と「デュアルシグネチャ」は、 2018年 9月に承認された 802.3bt からだ。 802.3at は通称 PoE+(PoE Plus)と呼ばれている。
従来規格の 802.3af と新規格の 802.3at を区別するため、「タイプ」分類が持ち込まれた。802.3af は「802.3at Type 1」となり、802.3at は「802.3at Type 2」となった。最新規格の 802.3bt の登場(2018年9月)では新たに Type 3/Type 4 が登場することになる(図1 クラス別給電)。

データ通信線(撚対線)を介して高電力伝送を行うと、通信線導体の発熱が問題になる。温度が上昇すると抵抗が大きくなり、通信線での電力損失が増加しデータ信号の減衰も大きくなる。最悪の場合、データ通信のエラー率悪化を招きかねない。これらのリスクを考慮し、直流抵抗の大きい CAT-3 と 1000BASE-T ではクロストーク性能に問題がある CAT-5 を規格対象から外し、新たに CAT-5e 以上が対象撚対線になった。ちなみに、CAT-3 の直流抵抗は 20オームで、CAT-5 以上の直流抵抗は 12.5オームだ。
つまり、従来の CAT-3/5 は PoE+ では使用できなくなった。しかし、1000BASE-T 規格化から既に 10 年が経過し、CAT-5e ケーブルが一般化していたため特に大きな問題ではなかった(図2 Ethernet/PoE 規格化時期)。

802.3at 規格化にあたり、幾つかの基本方針が作成された。最優先方針はもちろん給電能力アップで、従来の 12.95ワットから少なくとも 24ワットにアップすることだった。最終的には、PD の受電電力は 25.5ワットになった。 この変更は、従来規格の 802.3af で「Future use」となっていたクラス4 を明確にすることでもあった(表1 給電クラス)。802.3at 規格は、大規模な給電能力アップではなく従来規格の修正程度だ。802.3af と 802.3at の違いは「表2 802.3af/802.3at 違い」をご覧いただきたい。表中の Type1 はクラス 0~3 、Type2 はクラス 4 になる。


802.3at は、従来の 2ペア給電に加え 4ペア給電の実現方法を検討している。給電経路を 2倍の 4ペアに増やすことで、給電能力も 2倍の 51ワットに増える方式だ。 4ペア全てを通信に使用する 1000BASE-T を規格の対象にすることも狙いの一つだった。従来規格の 802.3af では、1000BASE-T は「将来アップグレードで対応」とかなり曖昧な取扱いになっていた。しかし、この 4ペア給電は 802.3at では正式な規格にならず、2018年に承認された 802.3bt 規格で承認されることになる。
もう一つの方針は従来規格 802.3af との互換性だ。互換性は 802.3at 対応の「タイプ2 PD」に関して次のような方針が作成された。
- 12.95 ワット未満で動作できないタイプ2 PD は、タイプ1 PSE に接続するときにユーザーに通知する必要がある。
- 12.95 ワット未満で動作できるタイプ2 PD は、タイプ1 PSE から電力を供給できる必要がある。
つまり、新規格(802.3at)対応の PSE には新旧規格の PD を接続できるが、従来規格(802.3af)対応の PSE には新規格(802.3at)の 12.95ワット以上の PD は接続できない。極めて常識的な互換性の取り方だ(表3 新旧規格互換性)。

基本方針に沿って、次の様な 802.3at 方針が作成された。
CAT-5e が必要(従来は CAT-3/5)
50 – 57 ボルト(従来は 44-57V)
600ミリアンペア(従来は 300mA)
極性反転に対応
スイッチ等のエンドポイント PSE と PD は従来規格 (802.3af)と同じ 120µヘンリー
従来の 2ペアに加え 4ペア給電が可能
- 2ペア給電は、PSE 30ワット/PD 25.5ワット
- 4ペア給電は、PSE 60ワット/PD 51ワット
Detection・・・・・変更なし
Classification・・・変更
給電・・・・・・・変更なし
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802.3af から 802.3at への主な変更点は「表4 PoE 規格一覧」を参照いただきたい。赤線部が主な変更点だ。
