給電期間
PSE は、Detection とオプションの Classification を完了すると、給電を開始する。給電期間は Start-up(開始)、 Operation(給電)と Disconnection(切断)の 3つのフェーズに分かれる(図1 PoE 給電)。

Start-up(開始)
PoE 給電の最初の段階が Start-up だ。Detection とオプションの Classification が完了すると、PSE は短時間(15 マイクロ秒以上)で低電圧から供給電圧(44~57 ボルト) に切り替える必要がある(電圧の立上りが遅いと、PD の起動が不安定になるため)。PSE の電圧が急上昇し突入電流が流れると、撚対線にノイズが発生する。PD はノイズ発生を抑制するため、給電開始から 50ミリ秒以内に突入電流を抑えなければならない。この Start-up 期間にバルクコンデンサ(Cbulk)を充電し、給電(Operation)に備えることになる(図2 シングルシグネチャ PD)。Cbulk は PD デバイスのデータシートによれば、60μファラッド~300μファラッド程度のかなり大容量のアルミ電解コンデンサを使用している。詳細は半導体マニュアルを参照いただきたい。

「図3 PSE 給電」のように、PSE は給電を開始し、開始直後の 1ミリ秒の間はピーク電流(最大 5アンペア)が流れるが、遅くとも 2ミリ秒後には I-Inrush(400ミリアンペア~450ミリアンペア)の範囲に落ち着く。給電直後のピーク電流は、Cbulk コンデンサを充電するために発生する。PSE の突入電流制限は 50~75ミリ秒継続するが、50ミリ秒以内に通常動作範囲(10~350ミリアンペア)に収める必要がある。方や PD は、給電開始から 80ミリ秒の間突入電流が収まるのを待ち、負荷への給電を開始する。

Operation(給電)
Operation 期間は通常給電中で、PSE は直流 44~57ボルトをかけ 15.4ワットの電力を供給できる。 Operation 期間には 3つの電流監視領域がある。
Disconnection(切断)
Disconnection には 2つのケースがある。 1つは給電中に通常動作としてケーブルを外し PD を切り離すケースだ。もう 1つは、規格を超える電力消費の発生や給電線の短絡等による過負荷が発生し、給電を緊急遮断するケースだ。前者は通常動作で特に急ぐ必要はないが、後者は緊急対応が必要になる。
給電中にケーブルを外し PD を切り離すケースでは、比較的短時間で電源をシャットダウンする必要がある。電源のシャットダウンが遅れると、PoE 非対応のデバイスに再接続され事故を起こす可能性がある。PSE は I-Min を下回ると、300~400ミリ秒以内に給電を停止することで、再接続による事故を防いでいる(図3 PSE 給電)。300~400ミリ秒の時間設定の下限値(300ミリ秒)は瞬断等のランダムな変動で給電が停止することを防ぐためだ。上限値(400ミリ秒)は、作業者がケーブルを再接続する時間より短くすることで、再接続による事故を防ぐ目的で設定された。
I-Cut を超える電流を検知し、この状態が 50~70ミリ秒継続すると「過負荷状態」と判断し、給電を緊急停止する(図4 PSE 過負荷遮断)。「過負荷状態」の要因は、 PD の 12.95ワットを超える電力消費やケーブルや PD の障害による電源の短絡等が考えられる。いずれも危険な状態だ。
I-Cut を超える状態が 50~70ミリ秒継続すると給電を緊急停止するが、少なくとも 50ミリ秒待つのは、ランダムな電流変動による想定外の給電遮断を防止するためだ。最大待ち時間の 70ミリ秒は、ケーブル等の過熱による損傷から守るために設定された時間だ。
「図4 PSE 過負荷遮断」のように、ケーブルの短絡などの場合は、過負荷状態の I-Cut を超えると I-Limit に達し、ここで電流制限が働く。 I-Cut 超過が 50~70ミリ秒継続すると給電を停止する。I-Cut 超過による遮断が発生すると、危険を回避するため 3~5秒の間給電を再開しない(Cool Down Time)。I-Cut は、350~400ミリアンペアの間で設定される。詳しくは半導体デバイスの仕様を確認いただきたい。

DC Disconnection/AC Disconnection
ここまでの Disconnection の説明は「DC Disconnection」と呼ばれる方式だ。802.3af では、この DC Disconnection の他に「AC Disconnection」方式を選択できる。 AC Disconnection は、ポートのインピーダンスを監視して PD の有無を検知する方法だ。
この方法は、有効な PD が接続されている場合、その端子で測定される AC インピーダンスが、切断されたオープンポートのインピーダンスよりも大幅に低くなる特性を利用している。AC Disconnection は回路が複雑化するため、DC Disconnection が主に使われている。
MPS
PSE は電力供給中に PD の接続を確認するため、消費電力を監視している。PD の消費電力が 300ミリ秒~400ミリ秒途絶えると、PD との接続がなくなったと判断し電力を遮断する。しかし、スタンバイ中やスリープ中の PD に最大電力を供給するのは効率が悪い。
スタンバイ状態の PD が切断されないよう消費する最小電流は、10ミリアンペア(I-Min)で、PSE の電圧が 57ボルトの場合、PD の消費電力は 0.6ワット以上だ(消費電流 = 0.6W÷57V=10.5mA > 10mA)。しかし、LED ライトのような一部の PD では、この要件を満たさない低電力モードやスリープ モードを持つものがある。そこで、PD が断続的に所定の電流を消費することで、給電を遮断せず消費電力を削減する MPS(Maintain Power Signature:電力維持シグネチャ)が導入された。
802.3af の PD は、パルス間隔が 250 ミリ秒を超えず、少なくとも 75 ミリ秒間 10 ミリアンペアの最小電流パルスを生成する必要がある。これを「DC MPS」と呼び、動作電圧が 54ボルトならば、PSE の消費電力は 125ミリワットになる。また PD は、 「AC MPS」と呼ばれる別形式の MPS もサポートする必要がある。これは、Detection(検出)でのシグネチャ抵抗(25KΩ)の検出を継続して行うもので、ここでの消費電力は約 117ミリワットになる。合計 0.24ワットになり、連続して電流を消費する 0.6ワットより少なくなる。
DC MPS 消費電力=(10mA×54V×75ms÷(75ms+250ms))≒125mW
AC MPS 消費電力=2.16mA×54V≒117mW
合計 PSE 消費電力=125+117=242mW=0.24W
802.3af の課題
802.3af は最初の IEEE PoE 規格として登場し普及した。しかし、次のような課題が残り、次世代規格で対応することになる。
- 1000BASE-T サポート
- クラス 4 明確化
- 給電能力の向上