高周波基板設計の基礎(1)電磁波ノイズ「EMC」の定義

電子機器はノイズ(電磁波)を発生し外部機器に影響を与えると共に、外部機器ノイズの影響を受ける。電子機器が発生するノイズが他の機器に影響を与えないことと、他の機器が発生するノイズに影響されないことの両方の特性を持つ必要がある。これを電磁両立性」 「電磁適合成」(EMCElectro Magnetic Compatibility)と呼ぶ。

電子機器が発生するノイズは EMIElectro Magnetic Interference)またはエミッションEmission)と呼び、電磁妨害や電磁障害とも呼ばれる。 EMI は伝導エミッション(Conducted Emission)と放射エミッション(Radiated Emission)がある。伝導エミッションは、電源ケーブルなどのケーブルを経由して伝わるノイズで、放射エミッションは空間に放射されるノイズだ。

外部電子機器のノイズに影響を受けることを、EMSElectro Magnetic Susceptibility)と呼び、イミュニティ(Immunity)や電磁感受性と呼ばれることもある。Immunity は耐性/耐量と言う意味で、他の機器からのノイズの影響を受けても影響されないことを意味する。EMS は伝導イミュニティ(Conducted Immunity)と放射イミュニティ(Radiated Immunity)がある。伝導イミュニティは、電源ケーブルなどのケーブルを経由して伝わってきたノイズに対する感受性で、放射イミュニティは空間から伝わったノイズに対する感受性だ。

本資料はデジタル回路の「放射エミッション」を対象とする( 「図1 EMC 定義」 )。伝導エミッションは、適切な電源ノイズフィルターを実装することでほぼ対応できる。放射エミッションを適切な範囲に収めることで、イミュニティ(耐力)も改善される場合が多い。

図1 EMC 定義
図1 EMC 定義

自動車の EMS 規定は民生品より厳しい

自動車の EMS 規定は、民生品に比べかなり厳しい。自動車の EMS 規定は「実車試験」と「部品試験」に分かれる。実車試験のエミッションは「CISPR12」、イミュニティは「ISO11451」で規定され、部品試験のエミッションは「CISPR25イミュニティは「ISO11452で規定される。しかしこの規定は最低限の規定に過ぎず、各自動車メーカの独自規定がありさらに厳しくなる。

民生品の規定である VCCI クラスBCISPR25 の最も厳しいクラス 5(クラスは 1~5)のエミッションを比べると、次のような大きな違いがある。

  CISPR25 VCCI-B
対象周波数 150kHz ~(飛び飛び) 30MHz ~
強度(at 100MHz) 25dBµV/m 40dBµV/m(3m 法)
※ 実に 15dBµV/m の差( 1/5 ~ 1/6 のレベル!)
測定距離 1m 3m
※ 電波の近傍界/遠方界の問題がある
表1 CISPR25とVCCI比較

VCCI-B の最低周波数は 30MHz で、近傍界と遠方界の境界は約 1.6m となり、 3m の測定距離は妥当だ。しかし、 近傍界と遠方界の境界が 1m に相当する周波数は約 50MHz になる。

自動車のイミュニティも同様に厳しい。民生品の VCCI-B のイミュニティは IEC61000-4-3 で 10V/m 数だが、車載部品試験のイミュニティは ISO11452-2 で 100V/m と 10倍の厳しさだ。車載部品試験の「レーダーパルステスト」では、600V/m と 60倍の厳しさになる。

図2 SISPR25/CISPR22 違い(イメージ)
図2 SISPR25/CISPR22 違い(イメージ)

装置全周から放射される電磁波を、周波数ごとに積算する。

表1 VCCI 周波数範囲
表2 VCCI 周波数範囲
図3 放射妨害波の測定例
図3 放射妨害波の測定例

測定例

装置全周から放射される電磁波を、周波数ごとに積算する。一カ所でも規制値を超過すると不合格になり、製品出荷はできない。規制値を越える周波数のレベルを下げる必要がある。規制値を越える要因は一つではなく、複数箇所に及ぶことが多い。複数要因に順次対応することで、徐々にレベルが下がることが多い。

対象周波数領域で規制値を下回る必要がある。状況によっては、特定の周波数への集中を避け拡散させる場合もある。

図4 放射妨害波の強度イメージ(不適合)
図4 放射妨害波の強度イメージ(不適合)
図5 放射妨害波の強度イメージ(適合)
図5 放射妨害波の強度イメージ(適合)
図6 複数の要因がある
図6 複数の要因がある

EMC対策

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。