Power over Ethernet(13)802.3bt(PoE++) – 接続手順|Classification:Autoclass / Short MPS

Classification(分類)

Autoclass

802.3bt では、Classification の拡張機能として「Autoclass」がオプションとして追加された。Autoclass は、給電開始の初期段階で実際の消費電力を測定し、実際の消費電力にマージンを加算し、電力の微調整を行う機能だ。Autoclass を使用すると、PD への PSE 電力割り当てを最適化できる。「図1 Autoclass 例」で動作概要を説明する。

この例では、タイプ4 PSE とクラス8 PD が 25m の CAT-5e 撚対線を介して接続されている。ケーブル長が短いため、ケーブルでの電力損失が少なくなった例だ。 PD の実際の消費電力(実測)は 65ワットでクラス8 PD の消費電力範囲(71.3~74.9ワット)を下回っている。PSE での消費電力は 66.5ワットで、最小供給電力 90ワットをかなり下回っている。通常 Classification では、クラス8 PD に対して、PSE は少なくとも 90ワットの電力を割り当てるため、23.5ワットの電力が無駄に割り当てられている。このような差分は、ケーブル長、温度による変動や個体差により発生する可能性がある。

Autoclass の規定では、確実に運用するためクラスごとに実測値に電力マージンを加算する方式を採用している。クラス8 では 1.25ワットがマージンとして加算されるため、この例の電力設定は 67.75(66.5+1.25)ワットになる。Autoclass を使用することで 22.25ワット(=90-67.75)削減することができる。実に 25% の削減になる。多ポートスイッチでは複数の PD を接続するため、電力割り当ての効率化は有効だ。

図1 Autoclass 例
図1 Autoclass 例

通常の Classification は、PD の要求する電力クラスに応じた電力を供給できる。しかし、電力範囲が広くケーブル長などの実環境に対応した電力の最適化ができるとは限らない。そこで、実際の消費電力を測定し、供給電力を最適化する機能が「Autoclass」だ。

Autoclass は、 Classification サイクル中に PD が PSE に要求を出すことで始まる。 「図2 Autoclass Classification タイミング」に示すように、最初の Classification イベント開始から 81ミリ秒後に PD が Classification 0(ゼロクラスシグネチャ:1~4ミリアンペア)に移行することで、 PSE が Autoclass 要求を認識する仕組みだ。PSE が Autoclass 要求を認識すると、給電サイクル(Operation 期間)の最初の段階で「最大消費電力」を測定し、電力割り当てを変更する。PSE が Autoclass を実装していない場合は、電力測定をせず電力調整も行わない。この場合、電力の最適割り当てはできないが実運用上の問題はない。PSE が電力測定を行う一定期間、PD は最大電力消費状態になる必要がある。

図2 Autoclass Classification タイミング
図2 Autoclass Classification タイミング

PSE の電力測定は「図3 PoE 給電サイクル」 Operation(給電)期間の初期段階で行われる。PD に電源が投入され一定の安定時間後約 1.5秒間、PD は最大電力を消費し、PSE は消費電力を測定することで「供給電力」が決まる。「図4 Autoclass 最大電力測定タイミング」は、詳細な時間と PSE/PD の関係だ。

図3 PoE 給電サイクル
図3 PoE 給電サイクル
図4 Autoclass 最大電力測定タイミング
図4 Autoclass 最大電力測定タイミング

給電が始まると、PD は最大電力を消費する準備に入り、1.35秒後には最大電力消費を開始する。PSE は Start-up が完了すると、一定時間待機後測定を開始する。PSE は 150~300ミリ秒幅のスライディングウィンドウで消費電力を平準化し、約 1.5秒間計測を継続する。電力測定結果の最大値にクラスごとのマージンを加算し、 Autoclass の電力値とする。各クラスの加算マージンは、「表1 Autoclass クラス別加算マージン」を参照いただきたい。

表1 Autoclass クラス別加算マージン
表1 Autoclass クラス別加算マージン

マージンを加算するのは、運用中の温度上昇で抵抗値が高くなることによる消費電力の増加に対応するためだ。

Short MPS

PSE が PD に電力供給中、PSE は PD の接続確認のため消費電流を監視する必要がある。PD の電力消費が 400ミリ秒(設定により変わる)途絶えると電力を遮断(Disconnection:切断)するが、スタンバイ中やスリープ中の PD に最大電流を供給したのでは電力の無駄が多い。そこで、PD が断続的に MPS( Maintain Power Signature:電力維持シグネチャ)を出すことで、給電を遮断せず消費電力を削減する機能が 802.3at で導入された。802.3bt では従来の MPS の消費電力をさらに削減する MPS 改良版(Short MPS)が登場する。

スタンバイ状態の PD が切断されないよう消費する最小電流を「MPS:Maintain Power Signature」と呼ぶ。スタンバイ中やスリープ中の PD を切断しないためのキープアライブ信号(電流)になる。クラス 1~4 の PD の MPS は 10mA、クラス 5~8 の PD の MPS は 16ミリアンペアになる(表2 PD MPS 要件)。

表2 PD MPS 要件
表2 PD MPS 要件

PD の電圧が 54ボルトの場合、クラス 1~4 の PD 消費電力が 0.6ワットを超える場合、クラス 5~8 の PD の消費電力が 1ワットを超える場合は、MPS の要件を満たすことになる。電力計算の最悪条件は、PD の受電電圧が 57ボルト(最大値)の場合で、計算式は次のようになる。

クラス 1~4 PD

0.6W÷57V≒10.5mA >10mA

クラス 5~8 PD

1W÷57V≒17.5mA >16mA

LED ライトのような一部の PD では、MPS 要件を満たさない低電力モードやスリープ モードを持つものがある。このような PD では、給電を維持するため意図的に高い電流を所定の間隔で流す必要がある。この時に流れる電流が MPS パルス電流だ。

MPS パルスの振幅(電流)は PD のクラスに依存し、オン時間とオフ時間は PD が接続されている PSE タイプに依存する。802.3af/802.3at で規格化されたタイプ 1 とタイプ 2 の PD は、パルス間隔が 250 ミリ秒を超えず、少なくとも 75 ミリ秒間 10 ミリアンペアの最小電流パルスを生成する必要がある。これを「DC MPS」と呼び、動作電圧が 54ボルトならば、PSE の消費電力は 125ミリワットになる。計算式は下記だ。

  • PSE 消費電力 1=(10mA×54V×75ms÷(75ms+250ms))≒125mW・・・①

タイプ 1 またはタイプ 2 の PD(802.3af/802.3at)は、 「AC MPS」と呼ばれる別形式の MPS もサポートする必要がある。これは、Detection(検出)でのシグネチャ抵抗(25KΩ)の検出を継続して行うもので、ここでの消費電力は約 117ミリワットになる。計算式は下記だ。

  • PSE 消費電力 2=2.16mA×54V≒117mW・・・②
  • 合計 PSE 消費電力=①+②=125+117=242mW

802.3bt で規格化されたタイプ 3 とタイプ 4 の PD は、タイプ 3 またはタイプ 4 の PSE に接続されたとき、パルス間隔が 310ミリ秒以下で少なくとも 7ミリ秒の間 10ミリアンペアの電流を流す必要がある。この場合の消費電力は約 12ミリワットになる。タイプ 1 /タイプ 2 の消費電力の約 1/20 になる。計算式は下記だ。MPS のクラス別要件は「表3 PD MPS 要件」、動作イメージは「図5 MPS 動作イメージ」をご覧いただきたい。

  • PSE 消費電力 3= (10mA×54V×7ms÷(7ms+310ms))≒12mW・・・➂
  • 消費電力比=(①+②)÷➂≒ 1/20
表2 PD MPS 要件
表2 PD MPS 要件
図5 MPS 動作イメージ
図5 MPS 動作イメージ

新たな MPS 規格は、PSE タイプと PD タイプの組み合わせにより、かなり複雑な動作をする。例えば、タイプ 3 およびタイプ 4 の PD は、タイプ 1 またはタイプ 2 の PSE に接続すると、「図5 MPS 動作イメージ|ケース A下段」のように、長い MPS パルスと AC MPS のサポートが必要になる。クラス 5~8 の高電力 PD が、Classification でクラス 1~4 に割り当てられると MPS の電流パルスは 16ミリアンペアではなく 10ミリアンペアになる。また、DLL(Data Link Layer Classification)で電力クラスが変更になると、MPS の要件も変更になるので注意が必要だ。

PSE が クラスに応じた所定時間(250~310ミリ秒)、所定の電流(10 または 16ミリアンペア) を下回ると、給電を停止する。これは、給電停止(Disconnection)の条件だ。この条件に従い、MPS が 所定時間以上存在しないと、PSE は給電を停止する。給電停止条件は「Disconnection」を参照いただきたい。

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。