PoE は Ethernet の通信用撚対線(金属ケーブル)を利用して、接続先機器に電力を供給する仕組みだ。通信線と電力線を統合することで配線をシンプルにし、電源配線の敷設が困難な場所に Ethernet ケーブル(撚対線)だけで機器を設置することができる(図1 PoE 構成例)。
PoE の主な用途は、IP電話、WiFiアクセスポイント、IPラメラ、照明機器など比較的消費電力が少ない機器への給電だ。規格化当初は IP電話対応の事例が多く、WiFiアクセスポイントの高性能・高機能化が PoE の供給電力増強や機能強化の背景にあった。
「図1 PoE 構成例」は 、Ethernet スイッチ(給電装置)とWiFi ルータ、IP 電話や IP カメラを PoE で接続している。PoE 対応 Ethernet スイッチ(給電装置)には商用電源が必要だが、受電装置には商用電源の配線は不要だ。PoE では、給電装置を PSE(Power Sourcing Equipment)受電装置を PD(Powered Device)と呼ぶ。
PoE 導入の利点と懸念点
PoE 導入の利点
PoE 懸念事項
PoE 規格の歴史
PoE には 2種類の方式がある。接続機器が PoE 対応であることを確認してから給電を行う「アクティブ PoE」と、確認を行わず給電を行う「パッシブ PoE」だ。いずれの方式も、商品が流通している。
アクティブ PoE は、機器間での制御手順や電圧・電流などを厳密に規格化している。IEEE 規格として、802.3af/802.3at/802.3bt/802.3bu がある。これらは、通称 PoE/PoE+/PoE++/PoDL と呼ばれる一般的な PoE 方式だ。IEEE 規格以外にもベンダーや業界団体が規格化した PoE 方式がある。Cisco 社が開発した UPOE(short for Universal Power Over Ethernet)や、業界団体 HDBaseT Alliance が開発した PoH(Power over HD Base T)などがある。UPOE と PoH はいずれも IEEE 802.3at をベースにより高い給電能力を備えている。これらの 2つの規格は、802.3at が 4ペア給電を正式サポートせず、期待に応えられなかったことが要因で登場したのではないかと思う。
パッシブ PoE は非標準の PoE で、接続機器の確認や制御手順はなく、Ethernet ケーブルで常に電力を供給する方式だ。動作は簡単だが、接続機器の故障や焼損の可能性がある。
今回は、IEEE の規格である「802.3af/802.3at/802.3bt/802.3bu」の 4つの規格を順次解説したい。アクティブ PoE 規格と Ethernet 規格の制定時期は「図2 Ethernet / PoE 規格化時期」、各規格の関連は「図3 PoE 規格関連図」をご覧いただきたい。802.3bu(PoDL)は、1ペア撚対線で動作する車載 Ethernet 用に作られた規格で、汎用 Ethernet 用 PoE と大きな違いがある。PoDL は汎用 Ethernet 用 PoE 解説後に、お話ししたい。
注記事項
PoE
PoE の表記は、Power over Ethernet 規格全体を表現する場合がある。また、個別規格の 802.3af を PoE、802.3at を PoE+、802.3bt を PoE++ と記載する場合が多い。特に PoE の表記は 2通りの意味を持つため、混乱を招く恐れがある。
規格全体を「Power over Ethernet または PoE」と表記し、個別規格は規格名で記述した。また、車載規格の 802.3bu は PoDL と表記する。
クラス別電力
802.3af/802.3at 規格のクラス0/クラス3 の PD 消費電力を 12.95ワット、802.3bt では同クラスの PD 消費電力を 13ワットとした。規格制定当時の値に従ったものだが、両者の違いは対象撚対線の変更による抵抗値が変わったことと、給電電圧の変更が影響している。詳細は、本文中で説明したい。
参考文献
IEEE 規格以外に下記文献を参考資料として活用させていただいた。
- PowerDesine: All You Need To Know About Power over Ethernet(PoE) and the IEEE 802.3af Standard / Galit Mendelson
- Ethernet alliance: Overview of 802.3bt – Power over Ethernet standard / Lennart Yseboodt , David Abramson
- Ethernet alliance: Overview of 802.3bt Power over Ethernet with Dual-Signature PDs / Yair Darshan , Dylan Walker
- Investigations of the thermal impact of remote powering over generic cabling : Alan Flatman, Mike Gilmore, Arne Keller