PoE 接続手順の概要
無条件に撚対線経由での給電は危険だ。 PoE 未対応機器が損傷する可能性があり、適切な手順を実行する必要がある。「図1 PoE 接続手順」は、PoE 接続の基本的な手順だ。PoE 接続手順は PSE(給電装置)が次のような順序で行う。

2地点の電圧/電流値から抵抗値(抵抗勾配)を算出し、 802.3af に適合する有効な PD(受電装置)を検出する。
PD の消費電力クラスを選択する。Classification はオプションで、オプションを選択しない場合はデフォルトの「クラス 0」が選択される。
一定時間内に所定の起動電圧を印加する。
PSE は PD に直流 48ボルトの給電を継続して行う。つまり動作状態になる。
リンクが切断されると給電を停止する。給電を停止後、即座にこの接続手順サイクルを再開し、「1. Detection(検出)」に戻る。
電力超過、ショートによる過電流や電力クラスの超過等で、接続手順を中断し「1. Detection(検出)」に戻ることがある。
PSE は PoE 給電の前処理としてプローブ信号を生成し、PD 検出やクラス分類を行う。検出方法は所定の電圧(または電流)を一定期間かけ、電流(または電圧)測定を行う。「図2 PoE 接続手順とプローブ信号」は、プローブ信号電圧と順序をまとめたものだ。
Detection(検出)
PD 給電前に、 802.3af に適合する PD が接続されていることを確認する必要がある。この手順を「Detection」と呼ぶ。具体的には PD に 25KΩのシグネチャ抵抗器が接続されていることを確認する。
「図2 PoE 接続手順とプローブ信号」の Detection 期間のように、2.8ボルト~10ボルトの範囲で 2地点間の電圧と電流を測定し、抵抗値(抵抗勾配)を計算する。PD での 25KΩ シグネチャ抵抗値は誤差等を考慮し 23.75kΩ~26.25kΩ (25kΩ±5%)を適正範囲としている。(図3 802.3af シグネチャ抵抗範囲|PD上段)。 抵抗誤差は ±5% の精度で、特別高精度な抵抗を要求していないが、 Texas Instruments 社は、誤差±1% の抵抗を推奨している。
「図3 802.3af シグネチャ抵抗範囲| PD上段」のように、 PD では 23.75KΩ~26.25KΩ の範囲外は不適切なシグネチャ抵抗値になる。PoE 非対応の NIC(Network Interface Card)などの Ethernet インタフェースのインピーダンスは 150Ω で、明らかに規格の範囲外になり容易に PoE 非対応機器を識別することができる。
PSE から見ると、シグネチャ抵抗器までの経路に撚対線、RJ45 コネクタやダイオードブリッジがあり、誤差が積み上がる。この誤差を考慮し、PSE では 19kΩ~26.5kΩ の範囲を適正なシグネチャ抵抗器として認識することが推奨されている(図3 802.3af シグネチャ抵抗範囲|PSE下段)。 33kΩ以上と15kΩ 以下は明らかに誤差範囲を超えるため、シグネチャ抵抗器として認識せず排除されることになる。
PSE 側から見て 15kΩ~19kΩ と 26.5kΩ~33kΩの範囲はグレーゾーンで、 PSE 機器により異なるため、機器ベンダー(実際は半導体ベンダー)に判断が任されている領域だ。例えば、アナログデバイス社の LTC4263 は 17kΩ~29.7kΩ を 802.3af 適合範囲としている。
PSE による シグネチャ抵抗値(PD に実装)の検出は、2地点の電圧/電流を測定し 2地点間の抵抗勾配で評価を行う方式だ(図4 2地点検出)。 PSE とシグネチャ抵抗の間には、撚対線、RJ45コネクタとダイオードブリッジがあり、電圧が降下(オフセット)する。しかも、降下電圧は機器ごとに異なるため、正確に規定することができない。電圧オフセットは PSE で 2ボルト以内と決められてはいるが、1地点での抵抗測定ではこの電圧降下の影響を排除できないため、2地点間の抵抗勾配で検出する方式になった。PSE の電圧/電流測定は、電圧をかけ電流を測定することも、電流を流し電圧を測定することもできる。2地点測定ポイントは 1ボルト以上離れている必要があり、 2.8ボルトから 10ボルトの範囲でなければならない。抵抗勾配の計算式は下記計算式を使用する。
抵抗勾配: Rdetect = $\frac{V1−V2}{I1−I2}$

「図5 2地点計測オフセット電圧」は、2地点で電流を流し電圧を測定した例だ。シグネチャ抵抗値が 25kΩで、オフセット電圧が 0ボルトと 2ボルトの例だ。抵抗勾配とオフセット電圧の計算式は下記の通りだ。
抵抗勾配:Rdetect = $\frac{V1−V2}{1−I2}$
オフセット電圧:Voffset = $\frac{V2×I1−V1×I2}{I1−I2}$
「図5 2地点計測オフセット電圧」の例では、青線はシグネチャ抵抗が 25kΩでオフセット電圧 0ボルトのケース、橙実線はシグネチャ抵抗が 25kΩで地点1と地点2の電圧/電流測定値が、地点1(4.5V、180µA)/地点2(8.5V、255µA)のケースだ。橙線のオフセット電圧は 2ボルトになる。
「図6 シグネチャ抵抗認識範囲」は、オフセット電圧が 2ボルトで PSE のシグネチャ抵抗の許容範囲が 19kΩ~26.5kΩの場合の認識領域だ。橙線の範囲ならば、802.3af に適合するシグネチャ抵抗として認識する。オフセット電圧が小さくなるとこの領域は左にシフトし、シグネチャ抵抗の許容範囲が広がればこの 3角のエリアは拡大する。

Alternative A/B(Mode A/B)競合
802.3af はシングルシグネチャ方式だ。Alternative A と Alternative B の2通りの給電経路があるが、PD を検出するシグネチャ抵抗は 1つしかない(図7 シングルシグネチャ)。Alternative A/B 2つが同時に給電を行うと、供給電力が規格外になる。この問題を回避するために、次の 2つのルールにより Detection でいずれか一方を排除するようになっている。
- 「シングルシグネチャ」は、他のモードで電圧/電流が適用されていない場合、有効な検出シグネチャを提示しなければならない。
- 他のモードで 3.7ボルト~57ボルトの範囲の電圧、または 124マイクロアンペアを超える電流が適用されている場合、有効な検出シグネチャを提示してはならない。
つまり、Alternative A/B のいずれか一方が Detection を行う場合は正しく動作するが、両方が同時に動作すると正しく動作せず、シグネチャ抵抗の検出に失敗することになる。競合が繰り返されると給電を開始できないため、対応策として Alternative A を優先する「ミッドスパンバックオフ」機能がある。
ミッドスパンバックオフ機能は、Alternative A が検出に失敗すると即座(500マイクロ秒強)に検出をやり直すが、Alternative B が検出に失敗すると 2秒以上待つルールになっている。競合を起こした場合、Alternative A が先行し勝者になる仕組みだ。
Classification(分類)
Detection 期間で PSE は PD を検出すると、次の Classification 期間で PD の電力クラス分類を開始する(図8 Classification)。Classification はオプション扱いで、実装されない場合もある。
Classification 期間では、PSE 側の電圧が 15.5ボルト~20.5ボルト(Classification Range)になると PD が一定の電流を消費することで、PD の電力クラスを PSE に伝え、PSE は PD の電力レベルを知ることができる。PD の電力クラスを示す「分類電流」は、 「表1 802.3af PD 最大消費電力」 だ。「図9 PoE Classification」の例では、15.5ボルト~20.5ボルトの電圧範囲で 18ミリアンペアの電流を検出しクラス2 と判定している。
802.3af では、「表1 802.3af PD 最大消費電力」に示すように、PD には 4つのクラスと 3つの電力レベルがある。クラス0 はデフォルトで、PD が Classification 機能を持たないときに割り当てられる。クラス4 は、IEEE802.3af 制定時には将来の使用のために予約されていたが、その後 802.3at で規格化され「PD 最大消費電力」は 25.5ワットに変更になった。
