Power over Ethernet(3)802.3af(PoE) 規格化経緯 / PSE と PD

802.3af 規格化経緯

1990年代後半以降 Ethernet が普及し、電源配線が届かない場所に IP 電話等のネットワークデバイスを設置したい、または電源配線は新たに設置できるが設置作業やコストを削減したいという要望が強くなった。この要望を背景に、既存の撚対線(CAT-3/CAT-5)をそのまま使用し、データ通信と電力供給を撚対線に統合する動きが始まった。

1999年に検討が始まり 2003年に規格化が完了した 802.3af は、IP 電話や WiFi アクセスポイント等の端末にデータ通信と電力を撚対線で供給する Power over Ethernet(PoE)の最初の規格だ。既設の CAT-3 / CAT-5 等の Ethernet ケーブル(撚対線)を変更せず、データ通信と電力供給を同時に実現することができる。

最初の PoE 規格(802.3af)では、12.95ワット未満の電力消費端末に、撚対線を介して 直流 48ボルトで電力を供給することができる。この規格は、2003年6月に承認されたため、当時すでに普及していた 10BASE-T/100BASE-TX の 2つの通信方式が検討対象になっている。当時、規格化は完了していたが普及途上の 1000BASE-T は、将来アップグレードで対応できることを目指していた。現在の 「Power over Ethernet」 を当時は「Data Terminal Equipment (DTE) Power via Media Dependent Interface (MDI)」と呼んでいた。第 2 世代の 802.3at も呼称は変更されず、現在普及している 「Power over Ethernet 」の呼称に変更されたのは 3世代目の 802.3bt 規格からだ。Ethernet と PoE 規格化時期は「図1 Ethernet/PoE 規格化時期」を参照いただきたい。

図1 Ethernet / PoE 規格化時期
図1 Ethernet / PoE 規格化時期

802.3af 技術課題

802.3af の規格化方針は、すでに普及していた 10BASE-T/100BASE-TX 対応と、普及が見込まれていた 1000BASE-T にも対応できるアップグレードの余地を残すことだったが、PoE 実現には幾つかの課題があった。給電により通信品質に影響を与えないことと、安全規格に対応することだ。Ethernet の撚対線に直流電圧を印加すると、ノイズの影響を受けやすくなり信号品質が劣化する可能性がある。

安全規格は PSE での対応がメインになる。PSE は既存のケーブル・コネクタや PoE に対応していない機器に損傷を与えてはいけない。そこで、規格に適合した PD が検出されたときのみ給電を行い、リンクが切断された場合は即座に給電を停止する必要がある。PoE 対応端末に給電する場合も過電流や回線ショートに対応し、発煙発火を防ぐために発熱を抑えることも必要だ。

PSE が供給する電圧や電流は、既設の RJ45 コネクタと CAT-3/CAT-5 撚対線に対応する必要がある。例えば、 CAT-5 ケーブルは 80Vdc(直流)を超える電圧をかけることができない。RJ-45 コネクタの最大定格電圧は 250ボルトで、最大定格電流は 1.5アンペアだ。もちろんこの定格を越えてはいけない。

人体への影響を考慮した安全規格では直流 60ボルト未満の電圧が SELV(Safety Extra Low Voltage:安全特別低電圧)として IEC で規定されている。 SELV を超える電圧を扱うためには、資格を持った作業者が安全規格に従い工事を行う必要がある。

コネクタやケーブルの安全規格だけではなく、ケーブルやコネクタの抵抗も重要な要素だ。CAT-3 ケーブルの抵抗値は 20Ω(最大 100m のケーブル+コネクタ)で、CAT-5 ケーブルの抵抗値は 12.5Ω だ。これらを考慮し、 PoE 給電は 直流 44~57ボルト/電流 350~400ミリアンペア 、電力は 15.4ワットになった。

もう一つ安全上対応しなければならない項目として、Ethernet の絶縁耐圧規定がある。Ethernet  の規定では、Ethernet スイッチの回路(フレーム GND や保護用 GND を含む)と MDI インタフェース(実際は RJ45 コネクタ)間の絶縁耐圧は 1500ボルト以上と規定されている。

Ethernet スイッチなどの PSE では、PoE 給電回路を Ethernet スイッチの回路から分離する必要がある。PD も同様に Ethernet リンク・筐体 GND と受電装置回路と PoE 間で 1500ボルトの絶縁耐圧が必要だ。 PoE で給電される電力から、絶縁型 DC/DC コンバータで PD 電源を作ることで、PoE 受電回路と PoE 受電端末の回路を分離している。

802.3af 規格概要

802.3af は2003年6月に規格が承認され、最初の PoE 規格として運用が始まった。その後 802.3at が登場し、従来型の IEEE802.3af は「IEEE802.3at Type 1」として再定義されたが大きな変更はない。次に 802.3bt が登場し、「802.3bt Type 3」と「802.3bt Type 4」が追加され、給電能力が大幅に増強された。

先ず、初期規格の 802.3af 全体を説明し、次に 802.3af のマイナーチェンジ版である 802.3at については 802.3af との違いを説明したい。従来規格の統合版でもある 802.3bt は従来規格と下位互換性はあるが、用語やパラメータ定義が異なるため、改めて全体を説明したい。802.3af/802.3at 規格概要は、「表1 PoE 規格一覧」を参照いただきたい。

802.3af 規格が対象とする撚対線は CAT-3 以上で、当時の状況としては CAT-3 と CAT-5 が対象だった。これは、10BASE-T が CAT-3 以上、100BASE-TX が CAT-5 以上となっていたためだ。初期 1000BASE-T の撚対線は、 100BASE-TX と同じ CAT-5 であったが、後にクロストーク性能を改善するために CAT-5e 以上に変わった。

表1 PoE 規格一覧
表1 PoE 規格一覧

802.3af には クラス0 からクラス3 の 4つの電力クラスがある。各クラスには、給電側の「最大給電電力」と受電側の「最大受電電力」が決められている(表2 クラスとタイプ)。クラス4 は、将来の拡張に備え「予備(Future use)」として確保されていたが、 802.3at 制定時に Type2 のクラス 4 となり廃止された。 802.3af/802.3at の「クラス0」は、 PD が PoE 未対応時のデフォルトとして規定されているが、最新の 802.3bt では廃止された。各タイプの分類(Classification)動作は後ほど説明する。

表2 クラスとタイプ
表2 クラスとタイプ

PSE と PD

802.3af システムは、PSE と PD がリンクセクション(撚対線)を介して接続された構成になっている。リンクセクションは接続ケーブルを表す IEEE802.3 用語だ。 PSE は自分自身の電源(AC100V 等の商用電源から自身の動作電圧を作る)で動作し、リンクセクションを介して PD への電力供給と電力管理を行う。 PD は リンクセクション経由で電力を供給されるため、独自の電源配線は必要ない。

PD に必要な電力は装置により異なる。PSE は PD に必要な電力を給電前に確認し、電力「クラス」を確定した後に給電を行う仕組みを備えている。 PSE と PD の間にあるリンクセクションには直流抵抗に応じた「電圧降下」、「電力損失」や「発熱」がある。これらを考慮した給電側の「電圧」 「電力」や受電側の「電圧」 「電力」等が規定されている。「図2 PSE と PD 接続例」は、 10BASE-T でリンクセクションが CAT-3 を想定した例だ。

図3 PSE と PD 接続例
図2 PSE と PD 接続例

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。