イーサネットは40年以上に渡り規格が追加・修正された歴史がある。10Mbps の 10BASE5 から始ま り、400Gbpsまで拡張されている。今回は、IoT や車載ネットワークでの直近の使用が想定される 10Mbps から1000Mbps の範囲でよく使われる規格に絞り解説したい。様々な派生規格があるが、使用実績が多い規格と今後普及が見込まれる規格は図1 の青枠内の規格だ。今回は対象外だが、図2 は 2.5ギガから100ギガまでの規格一覧だ。


改めて整理すると今回の解説対象は図3 の8種類だ。

ネーミング
初期のイーサネット伝送媒体は50Ωの同軸線で始まった。伝送速度も 1M ビット/秒と10M ビット/秒しかなく、変調方式も Base Band 変調と Broad band 変調だけだ。この時点でこれらを区別するために作られたネーミングルールは、図4 の様に簡単なものであった。伝送速度、変調方式と媒体の最大伝送距離を組み合わせで名前を決める。例えば、10Mbps の BASE バンド変調で同軸線の最大長が500m の方式は「10BASE5」になる。

その後、伝送速度は400ギガビット/秒まで高速化し、伝送媒体も撚対線(ツイストペア線)や光ファイバーが登場した。光ファイバーも用途に応じ様々な伝送距離の規格が登場した。都度、ネーミングルールが変更され、現在は図5 のようになっている。伝送速度と変調方式は基本ルールを踏襲しているが、伝送媒体の表記はかなり場当たり的な対応に見えるが、今のところ次のようなルールになっている。
- 同軸線の長さ 500m を表す「5」と、200m(実際は185m) を表す「2」が最初に登場。
- 撚対線( Twisted Pair )と光ファイバー(Fiber)を表す –T と –F が登場。
- 撚対線は送受信各1ペアだったが、送受信各2ペア(-T2)や双方向4ペア(-T4)が登場。
- FDDI の技術流用を示す「X」が登場した。その後「X」は通信媒体に光ファイバーを使用する意味に変わっていく。
- 光ファイバーと車載対応で、伝送距離を表す「S(Short)」と「L(Long)」が登場。

物理層副層
イーサネットの物理層は複数の「副層」で構成されている。初期のイーサネットは、符号変換を行う 「PLS:Physical Layer Signaling」副層と、同軸線に対応した電気信号に変換する「PMA:Physical Medium Attachment」副層の2つの副層で物理層を構成していた(図6 (a))。符号変換は「埋込クロック同期」を実現するために、クロックを確実の取り出せる方式が採用された。当時は 10BASE5 のみで様々なバリエーションに対応する必要がなく、このようなシンプルな構成になった。

100Mbps 登場以降は状況が変わった。図6 をご覧いただきたい。伝送速度に応じた様々な MII の 登場により、各種 MII の違いを吸収する「RS:Reconciliation Sublayer」副層が必要になった。伝送速度も 100Mbps から 400Gbps へと拡張された。「埋込クロック同期」の要件も厳しくなり様々な符号化技術が登場する。符号化を行う副層は「PCS:Physical Coding Sublayer」と名前を変えるが、 10BASE5 の「PLS:Physical Layer Signaling」と同等だ。次に、将来に備えてフレーム単位でエラー訂正が可能な「FEC:Forward Error Collection」副層が規定された。この副層はオプション扱いで、一般的なオフィス用イーサネットでは実装されていない。車載ネットワークでは FEC 機能が提案されている。
10BASE5 では物理層に対応した電気信号への変換を「 PMA:Physical Medium Attachment」副層で実行していたが、100Mbps 以降は2つの副層に分割された。100Mbps 以降の符号変換はバイト等の複数ビット列を変換し、エラー訂正機能 FEC も複数ビット列からエラー訂正コードを作る。この複数ビット列(パラレル)データをシリアルデータに変換する「PMA:Physical Medium Attachment」副層に加え、「PMD:Physical Medium Dependent」が追加された。PMD はシリアル変換されたデータ列を通信媒体に対応した電気信号や光信号に変換する副層になる。
撚り対線で接続された機器間で、通信速度や半2重/全2重通信などの様々な通信パラメータを自動設定する機能が追加された。これをオートネゴシエーション(Auto-Negotiation)と呼ぶ。「AN: Auto-Negotiation」は、この機能に対応した副層だ。AN もオプションになっている。
イーサネット原形の 10BASE5 のシンプルな階層構造から将来も見据えた階層構造へと機能が追加されたが、基本構造としては FEC と AN が追加されただけだ。100Mbps 以降の物理層副層と上位層 (第2層)の概要は図7 と「物理層副層の定義(IEEE802.3u)」を参照いただきたい。

ケーブルやコネクタ類も「イーサネット物理層」として説明することが一般的だが、ケーブルやコネクタ規格は IEEE802.1 の対象外だ。ISO/IEC 等の規格化団体や業界団体でケーブルやコネクタの規格化が行われている。
物理層副層の定義(IEEE802.3u)
- 100BASE-X PCS 副層(物理符号化副層)
- PCS 副層とRS 副層間のインタフェースはMII。
- MII が要求する下記サービスを提供する。
- (1)MIIデータの符号化(4B5B 変換)
- (2)キャリア検知や衝突検知
- (3)下位副層の PMA 副層にシリアルデータを渡す
- (4)上位の MII と下位の PMA との調整
- 100BASE-X PMA 副層(物理媒体アタッチメント副層)
- 物理媒体の仕様を支援するの中間副層。リピータ機能も提供する。
- 下記機能を実行する。
- (1)上位副層と下位副層間のコードビットの対応付け
- (2)上位層への下位層(PMD)の有効性を知らせる。AN(Auto-negotiation)と同期をとる
- (3)下位層(PMD)のキャリ検知、キャリアエラー検知
- (4)受信エラーの検知
- (5)下位層(PMD)の NRZI 符号からクロック抽出
- 100BASE-X PMD 副層(物理媒体依存副層)
- 100BASE-X シグナリングは、FDDI シグナリング標準 ISO/IEC 9314-3:1990 及び ANSI X3.263-1996 に従う。
- これらの PMD 副層のシグナリング標準は、マルチモード光ファイバー、STP 及び UTP 配線に対応し 125Mbps 、全2重シグナリングシステムを規定している。
イーサネットの物理層
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2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(1)概要・物理層のトレンド・物理層基礎技術
イーサネットを底辺で支えているのが物理層だ。物理層の基本機能は、0と1で表現されるデジタルデータを電気信号や光パルスに変換し媒体を介して通信することだ。OSI 階層では最下層に相当する。第2層以上の論理層と最下層の物理層 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(2)物理層基礎技術 パラレル通信とシリアル通信 / クロック同期方式
パラレル通信とシリアル通信 コンピュータ間通信方式はパラレル通信とシリアル通信に大別することができる。パラレル( parallel:並列)通信は、複数データを並列に同時送信するため高速通信が可能だが、複数のデータ線が必要 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(3)物理層基礎技術 クロック同期方式 共通クロック(Common Clock)同期 / 送信元クロック(Source Clock)同期
共通クロック(Common Clock)同期 プリント基板内での半導体デバイス間同期や、比較的低速な PCI などのパラレルバスで使用されている方式だ。歴史も古く事例も多い。名前のように送信側と受信側が、共通クロックに同 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(4)物理層基礎技術 クロック同期方式 埋込クロック(Embedded Clock)同期 / 非同期(調歩同期)
埋込クロック(Embedded Clock)同期 「埋込クロック同期」は、送信データに送信クロックを埋め込む方式だ。受信側は受信データからクロックを抽出しデータを読み込むマスタークロックとして使用する。送信元クロック同期 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(5)物理層基礎技術 DC結合・AC結合
装置間、基板間や基板内回路の電気信号接続には2つの方法がある。直流成分を送ることができる「DC 結合」と、直流成分をカットして交流成分のみを送る「AC 結合」がある。直流成分の除去にはコンデンサやパルストランスを使用する […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(6)全体階層構造
Ethernet TSN は第2層(データリンク層)を主に機能強化している。同時に、車載ネットワークを意識した第1層(物理層)にも新たな規約を策定した。車載ネットワークでは省スペースと重量削減が大きな課題で、これに対応す […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(7)xMII
MII は 10Mbps/100Mbps 専用のインタフェースとして登場した。イーサネットの速度アップに伴い、 MII を基に RMII/GMII/RGMII/SGMII/QSGMII/XGMII などの新たな規格が登場 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(8)MIIのデータインターフェイス/管理インターフェイス
オリジナルの MII は、データインタフェースと管理インタフェースの2つのインタフェースで構成される。データインタフェースは、更に送信用と受信用の2つの独立したチャンネルに分かれる。各チャンネルにはそれぞれ独自のデータ、 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(9)xMII RMII / GMII
RMII RMII(Reduced Media-Independent Interface )は、PHY/MAC 間接続の信号線を削減するために作られた規格だ。データインタフェース信号線の総数は16本から半分の8本に削減 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(10)xMII RGMII / SGMII
RGMII RGMII( Reduced Gigabit Media-Independent Interface )は、 GMII の PHY/MAC 間接続の信号線を削減するために作られた規格だ。信号線の総数は24本か […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(11)物理層規格の概要
イーサネットは40年以上に渡り規格が追加・修正された歴史がある。10Mbps の 10BASE5 から始ま り、400Gbpsまで拡張されている。今回は、IoT や車載ネットワークでの直近の使用が想定される 10Mbps […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(12)物理層規格 10BASE5/2/-T
オフィスでも家庭でも、10BASE5/2/-T 規格の製品に出会うことはまずない。オフィスや家庭での有線イーサネットの主役は 100Mbps か 1000Mbps だ。10BASE5/2/-T 規格は歴史の彼方に消えてい […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(13)個別規格 10BASE5/2/-T 符号化/マンチェスタ符号
符号化 物理層の基本機能は、1と0で表現されるデジタルデータを電気信号に変換しケーブルに流すことだ。最も簡単な変換は、「1」を電圧のハイレベル(例えば5V)に、「0」を電圧のローレベル(例えば 0V)に変換すれば、信号を […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(14)個別規格 100BASE-TX
100BASE-TX は、10BASE-T の次世代規格として1995年に登場した。家庭やオフィス LAN の主役は WiFi や 1000BASE-T に変わったが、今でも広く使われている。100BASE-TX は19 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(15)個別規格 100BASE-TX 4B5B変換 / Parallel to Serial 変換
4B5B 変換 従来の 10BASE5/2/-T は、伝送路上のフレーム間ギャップは無信号状態になっている。これは、1本の伝送路を複数ノードで共有する方式のため、信号の衝突を避けるためにはデータを送信していない期間を無信 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(16)個別規格 100BASE-TX スクランブラ / NRZ → NRZI → MLT3 変換
100BASE-TX スクランブラ スクランブラは、100BASE-TX が動作時にコネクタやケーブルから放射する妨害波(EMI)を抑えるために実装された機能だ。「埋込クロック同期」や「AC 結合」のための機能ではない。 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(17)個別規格 100BASE-FX
100BASE-FX 100BASE-FX は、1995年に IEEE802.3u で標準化された。光ファイバーを伝送路として2本のファイ バーケーブルを使用する。信号源に1300nm波長帯を使い、マルチモードファイバー […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(18)個別規格 1000BASE-T 概要
1000BASE-T は、10BASE-T/100BASE-TX の後継規格として 1999年に IEEE 802.3ab として標準化された。伝送媒体はカテゴリ5以上の撚対線を使用し、最大伝送距離は 100m だ。当時 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(19)個別規格 1000BASE-T 物理層 / 8B1Q4/4D-PAM5 / スクランブラ
1000BASE-T 1000BASE-T 物理層 1000BASE-T は 8ビット幅を持ち 125MHz(8ナノ秒サイクル)で動作する GMII で上位層と繋がっている。つまり、1000BASE-T の物理層は、8ナ […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(20)個別規格 1000BASE-T 畳み込み符号 / 4D-PAM5 符号 / フレーム構造
1000BASE-T 畳み込み符号 送信データのスクランブル後、8ビットデータに1ビット付加し9ビットにする。変換テーブルに 2倍の冗長性を持たせることと、変換テーブルでデータを拡散し電磁妨害波を抑えることが 1 ビット […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(21)個別規格 1000BASE-X 概要
伝送媒体に光ファイバーを使用する 1000BASE-X は、撚対線を使用する 1000BASE-T より1年早く1998年に標準化を完了している。同時にギガビットイーサに対応する GMII の標準化も完了した。1000B […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(22)個別規格 1000BASE-X 8B/10B 符号化 / 8B10B 変換
8B/10B 符号化 10ビットデータに変換する際に、 1/0 連続数を制限し確実な信号反転を発生させることと 1/0 個数の差を制限制限範囲内に収める必要がある。1/0 連続数制限は、1/0 の連続数が 4 個以内に収 […]