Ethernet TSN は第2層(データリンク層)を主に機能強化している。同時に、車載ネットワークを意識した第1層(物理層)にも新たな規約を策定した。車載ネットワークでは省スペースと重量削減が大きな課題で、これに対応するため1対(2本)のメタルケーブルで約15m 伝送を可能にする物理層が新たに追加された。まず、100BASE-T1 と 1000BASE-T1 が決まり、最近になって 10BASE-T1S/2.5GBASE- T1/5GBASE-T1/10GBASE-T1 が追加された。車載ネットワークでは、これらの新しい規格が採用される可能性が高い。一方、IoT 分野では、新しい物理層にこだわる理由はなく従来の撚対線や光ファイバーなどの物理層を採用する可能性が高い。このような状況を踏まえ、Ethernet TSN で新たに追加された機能の影響を確認すると共に、用途に応じ物理層を切り替えることができる仕組みを解説したい。
図1 は、アプリケーションデータ送受信モデルだ。送信データは順次下位層に引き渡され、その都度ヘッダ情報が付加される。最終的に物理層で電気信号や光パルスに変換され、伝送路を経由し受信ノードに届く。受信データは、各階層での処理が正常に終了するとヘッダ情報を削除し、順次上位層に引き渡す。最終的に、全てのヘッダ情報が削除され元のデータに戻る。

Ethernet TSN では、第2層(データリンク層)と第1層(物理層)の一部に変更を加えている。第3層の IP や第4層の TCP/UDP には一切手を入れていないため、第3層以上への影響はない。注意が必要なのは、「プリエンプション」による物理層の変更だ。図2 は、プリエンプションによるフレーム変更箇所だ。物理層で付加されたりチェックする箇所が変更されている。既設のイーサネット機器との互換性が保たれるかはかなり疑問だ。プリエンプションを採用する際は、慎重な互換性確認が必須だ。
(参考)Ethernet TSN(8)時分割多重におけるプリエンプションの概要

イーサネットフレームは、デファクトスタンダードの「Ethernet II」形式と「IEEE802.3」形式があり、 VLAN タグの有無で4つのパターンがある。Ethernet TSN は VLAN タグが必須のため、プリエンプションの影響を受けるのは VLAN タグ付きに限定される。「IEEE802.3」形式はめったにお目にかからないが、 IEEE 委員会が制定したプロトコルで使用されている。例えば、RSTP(Rapid Spanning Tree Protocol) を制御する BPDU(Bridge Protocol Data Unit)などで使われている。
プリエンプションによる変更を除けば、イーサネットフレームの変更や機能追加は無く、従来と変わりがない。
物理層には、様々な通信速度や伝送距離により伝送媒体は同軸線、撚対線、光ファイバー、無線など様々な種類がある。物理層が変わるたびに、第2層と第1層間の接続を新規に開発したのでは、時間やコストの無駄が多い。IEEE802.3 委員会はこの問題に対処するため、伝送速度が 10Mbps から 100Mbps へと拡張される段階で、第2層(MAC)と第1層(PHY)間の共通インタフェースとして「MII( Media Independent Interface)」を IEEE802.3u として制定した。MII が決められたことで、第2層以上を再設計したり交換することなく、様々な伝送速度や伝送媒体に接続できるようになった。まさに、論理層を物理媒体から独立させる(media independent)なインタフェースだ。その後、新たな規約の追加に対応し MII は拡張された。様々な MII の登場により、これらを総称して xMII と呼ぶことが多い。 10Gbps 以下 のイーサネット規格一覧は図3 を、伝送媒体、伝送速度の組み合わせは図4 を参照いただきたい。
各種イーサネット物理層解説の前に、論理層(第2層)と物理層(第1層)をつなぐ xMII を説明したい。


イーサネットの物理層
-
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(1)概要・物理層のトレンド・物理層基礎技術
イーサネットを底辺で支えているのが物理層だ。物理層の基本機能は、0と1で表現されるデジタルデータを電気信号や光パルスに変換し媒体を介して通信することだ。OSI 階層では最下層に相当する。第2層以上の論理層と最下層の物理層 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(2)物理層基礎技術 パラレル通信とシリアル通信 / クロック同期方式
パラレル通信とシリアル通信 コンピュータ間通信方式はパラレル通信とシリアル通信に大別することができる。パラレル( parallel:並列)通信は、複数データを並列に同時送信するため高速通信が可能だが、複数のデータ線が必要 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(3)物理層基礎技術 クロック同期方式 共通クロック(Common Clock)同期 / 送信元クロック(Source Clock)同期
共通クロック(Common Clock)同期 プリント基板内での半導体デバイス間同期や、比較的低速な PCI などのパラレルバスで使用されている方式だ。歴史も古く事例も多い。名前のように送信側と受信側が、共通クロックに同 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(4)物理層基礎技術 クロック同期方式 埋込クロック(Embedded Clock)同期 / 非同期(調歩同期)
埋込クロック(Embedded Clock)同期 「埋込クロック同期」は、送信データに送信クロックを埋め込む方式だ。受信側は受信データからクロックを抽出しデータを読み込むマスタークロックとして使用する。送信元クロック同期 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(5)物理層基礎技術 DC結合・AC結合
装置間、基板間や基板内回路の電気信号接続には2つの方法がある。直流成分を送ることができる「DC 結合」と、直流成分をカットして交流成分のみを送る「AC 結合」がある。直流成分の除去にはコンデンサやパルストランスを使用する […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(6)全体階層構造
Ethernet TSN は第2層(データリンク層)を主に機能強化している。同時に、車載ネットワークを意識した第1層(物理層)にも新たな規約を策定した。車載ネットワークでは省スペースと重量削減が大きな課題で、これに対応す […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(7)xMII
MII は 10Mbps/100Mbps 専用のインタフェースとして登場した。イーサネットの速度アップに伴い、 MII を基に RMII/GMII/RGMII/SGMII/QSGMII/XGMII などの新たな規格が登場 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(8)MIIのデータインターフェイス/管理インターフェイス
オリジナルの MII は、データインタフェースと管理インタフェースの2つのインタフェースで構成される。データインタフェースは、更に送信用と受信用の2つの独立したチャンネルに分かれる。各チャンネルにはそれぞれ独自のデータ、 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(9)xMII RMII / GMII
RMII RMII(Reduced Media-Independent Interface )は、PHY/MAC 間接続の信号線を削減するために作られた規格だ。データインタフェース信号線の総数は16本から半分の8本に削減 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(10)xMII RGMII / SGMII
RGMII RGMII( Reduced Gigabit Media-Independent Interface )は、 GMII の PHY/MAC 間接続の信号線を削減するために作られた規格だ。信号線の総数は24本か […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(11)物理層規格の概要
イーサネットは40年以上に渡り規格が追加・修正された歴史がある。10Mbps の 10BASE5 から始ま り、400Gbpsまで拡張されている。今回は、IoT や車載ネットワークでの直近の使用が想定される 10Mbps […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(12)物理層規格 10BASE5/2/-T
オフィスでも家庭でも、10BASE5/2/-T 規格の製品に出会うことはまずない。オフィスや家庭での有線イーサネットの主役は 100Mbps か 1000Mbps だ。10BASE5/2/-T 規格は歴史の彼方に消えてい […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(13)個別規格 10BASE5/2/-T 符号化/マンチェスタ符号
符号化 物理層の基本機能は、1と0で表現されるデジタルデータを電気信号に変換しケーブルに流すことだ。最も簡単な変換は、「1」を電圧のハイレベル(例えば5V)に、「0」を電圧のローレベル(例えば 0V)に変換すれば、信号を […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(14)個別規格 100BASE-TX
100BASE-TX は、10BASE-T の次世代規格として1995年に登場した。家庭やオフィス LAN の主役は WiFi や 1000BASE-T に変わったが、今でも広く使われている。100BASE-TX は19 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(15)個別規格 100BASE-TX 4B5B変換 / Parallel to Serial 変換
4B5B 変換 従来の 10BASE5/2/-T は、伝送路上のフレーム間ギャップは無信号状態になっている。これは、1本の伝送路を複数ノードで共有する方式のため、信号の衝突を避けるためにはデータを送信していない期間を無信 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(16)個別規格 100BASE-TX スクランブラ / NRZ → NRZI → MLT3 変換
100BASE-TX スクランブラ スクランブラは、100BASE-TX が動作時にコネクタやケーブルから放射する妨害波(EMI)を抑えるために実装された機能だ。「埋込クロック同期」や「AC 結合」のための機能ではない。 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(17)個別規格 100BASE-FX
100BASE-FX 100BASE-FX は、1995年に IEEE802.3u で標準化された。光ファイバーを伝送路として2本のファイ バーケーブルを使用する。信号源に1300nm波長帯を使い、マルチモードファイバー […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(18)個別規格 1000BASE-T 概要
1000BASE-T は、10BASE-T/100BASE-TX の後継規格として 1999年に IEEE 802.3ab として標準化された。伝送媒体はカテゴリ5以上の撚対線を使用し、最大伝送距離は 100m だ。当時 […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(19)個別規格 1000BASE-T 物理層 / 8B1Q4/4D-PAM5 / スクランブラ
1000BASE-T 1000BASE-T 物理層 1000BASE-T は 8ビット幅を持ち 125MHz(8ナノ秒サイクル)で動作する GMII で上位層と繋がっている。つまり、1000BASE-T の物理層は、8ナ […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(20)個別規格 1000BASE-T 畳み込み符号 / 4D-PAM5 符号 / フレーム構造
1000BASE-T 畳み込み符号 送信データのスクランブル後、8ビットデータに1ビット付加し9ビットにする。変換テーブルに 2倍の冗長性を持たせることと、変換テーブルでデータを拡散し電磁妨害波を抑えることが 1 ビット […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(21)個別規格 1000BASE-X 概要
伝送媒体に光ファイバーを使用する 1000BASE-X は、撚対線を使用する 1000BASE-T より1年早く1998年に標準化を完了している。同時にギガビットイーサに対応する GMII の標準化も完了した。1000B […] -
2-5.Ethernetの物理層
イーサネットの物理層(22)個別規格 1000BASE-X 8B/10B 符号化 / 8B10B 変換
8B/10B 符号化 10ビットデータに変換する際に、 1/0 連続数を制限し確実な信号反転を発生させることと 1/0 個数の差を制限制限範囲内に収める必要がある。1/0 連続数制限は、1/0 の連続数が 4 個以内に収 […]