先ず、IoT現場の現状ネットワーク構成の話からだ。ネットワークの全体構成は図1 のように「情報ネットワーク」と「制御ネットワーク」の2階層に分かれる。更に、制御ネットワークはコントロールレベル/デバイスレベル/センサレベルの3階層に分かれるのが一般的だ。

工場や物流現場などのネットワークの最上位は「情報ネットワーク」と呼ばれ、様々なサーバやクライアント機器(主にPC)を企業内LANで接続し、外部のクラウドやインターネットにも接続される。企業内LANでは、様々なアプリケーションがTCP/IPプロトコル上で動作し、下位層はEthernetで構成されている。また、情報ネットワークは、ファイル転送やWebアプリを実行するため、大量のデータを高速に通信できることが重要で、映像や音声などのストリーミングデータ伝送を除けば、厳しい時間的制約(リアルタイム性)がある用途で使われることは少ない。
「情報ネットワーク」の下位には「制御ネットワーク」があり、RS485などのシリアル通信方式の通信網で構成することが多い。しかし、近年この分野の勢力図は大きく変わり始めている。従来は、RS232C/RS422/RS485などのシリアル通信方式をベースにした「フィールドバス」が主流であったが、近年データ通信量の増加や上位の「情報ネットワーク」とのシームレス化のため「産業用イーサネット」が急速に増加している。
「制御ネットワーク」は、コントロールレベル/デバイスレベル/センサーレベルと3階層に分かれるが、下位層に行くほど「リアルタイム性」が求められる。リアルタイム性とは、高度な安全性と信頼性を確保しながら数十ミリ秒から数マイクロ秒までの確実なサイクルタイムを実現することだ。「リアルタイム性」の実現には、データの送信元から宛先に確実に一定時間内に届くための基本的な仕組みと、伝送帯域幅や遅延時間も重要な要素になる。
| 階層1 | 階層2 | 概要 | 
|---|---|---|
| 情報ネットワーク | 工場/事務所内LAN。工場や事務所間をつなぎ、外部のクラウドやインターネットに接続 | |
| 制御ネットワーク | リアルタイム性が要求されるため、従来は RS485 などをベースとする「フィールドバス」が主流であった。近年は産業用イーサネットが増加している | |
| コントロールレベル | 産業用PC/DCS(Distributed Control System)/PLC(Programmable Logic Controller)などのマスタ機能を持つ機器を接続する | |
| デバイスレベル | 各種分析装置/センサなどのI/Oを集約する装置を接続する | |
| センサレベル | センサ/スイッチなどの各種I/Oを接続。各種I/Oを制御するビットデータやバイトデータ等の比較的小さいデータ通信を行う | |
工場・物流現場のネットワークの現状
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					 岩崎 有平
		岩崎 有平	