障害検知
主な障害検知は2種類だ。1つは隣接するノードとのリンク切断(Link off)、もう一つはビーコン・フレームのタイムアウトだ。図1 はリンク切断のケースで、この例では、Node-3 とNode-4 の間が切断された。リンクが切断されるとイーサネットのハードウェアは即座にこれを検出できる。障害を検出した2台のノードは、障害検知フレームをリング・スーパーバイザに送る。リング・スーパーバイザはビーコン・フレームのタイムアウトを待たずに障害を短時間で検出することができる。
ビーコン・フレームもアナウンス・フレームもリンク切断で巡回せず、いずれタイムアウトが検出される。ビーコン・フレームは400マイクロ秒に1回、アナウンス・フレームは1秒に1回送信されるため、リンク切断通知のほうが早く到達する可能性が高い。
リンク断は障害時だけではなく、装置交換や増設等で日常的に発生する。このような状態をいち早く検出し、何事もないかのように動作を継続することが産業用ネットワークでは重要だ。

リング・スーパーバイザは障害を検知すると、即座にネットワークの再構築を開始する。リングに障害が発生し遮断されたため、リング構造ではなくなり図2 のようにライン構造に変わる。EtherNet/IP がリング構造とライン構造をサポートするのは、障害時にライン構造に変化するためだ。

ライン構造に変わると、ループ箇所がなくなるため遮断点を先ず開放し、Ling Node-3 と Ling Node-4 の未接続ポートはブロックされる。リング・スーパーバイザは両ポートからビーコン・フレームとアナウンス・フレームを送信する。しかし、 Line 構造のためフレームは巡回しない。EtherNet/IP はこの状態で動作を続け、リンク再接続を待つ。
障害復旧
Line Node-3 と Line Node-4 間のリンクが復旧すると、各ノードはリンク復旧をリング・スーパーバイザに通知する。通知を受けたスーパーバイザは初期状態に戻り、リングを再構築する(図3)。

ノード内蔵スイッチの要件
リング・スーパーバイザやリング・ノードは、イーサネット・スイッチと CPU を内蔵している。内蔵スイッチと CPU は次の要件を満たす必要がある。下記項目の概要については今回は解説しないが、別の機会で解説する。
- 10/100Mbps、全二重/半二重:必須要件
- 通信速度と全2重/半2重の強制設定:必須条件
- フロー制御オフ:推奨要件
- 自動MDIX:推奨要件
- オートネゴシエーション:推奨機能
- QoS 2レベル:必須要件
- QoS 4レベル:推奨要件
- 802.1Q/D :必須要件(非IPパケットで使用)
- DSCP:推奨要件(IPパケットで使用)
- CPU のブロードキャスト レート制限 :推奨要件(帯域幅の1%)
- CPU宛てユニキャスト/マルチキャストのフィルタリング:推奨機能
障害検出・回復時間
EtherNet/IP は、ビーコン・フレームやアナウンス・フレームの巡回時間、タイムアウト時間、障害検出時間や障害から回復しリングを再構築する時間を定めている。これらの時間計算の基本となるのが、ビーコン・フレームとアナウンス・フレームの DLR リング巡回時間だ。巡回時間を計算するにあたり、問題となるのはスイッチでの他のフレームとの競合だ(「産業用イーサネット(3)EtherNet/IP Ⅱ」図2、図3 参照)。

図4 は、ノード数とビーコン送信間隔ごとのビーコン巡回時間や障害検出時間のガイドラインだ。これらの数値の基本となるのがビーコン/アナウンスの巡回時間だ。巡回時間のイメージを図5 、各ノードでの遅延時間の構成を図6 に示す。


ビーコン/アナウンス巡回時間は、スイッチでの他フレームとの競合で発生する待ち時間に次のようなモデルを設定している。
- 前提条件1:ビーコン・フレームの長さは64バイト
- 前提条件2:フレーム間ギャップ12バイト/シンク8バイト(図7):フレーム長に含まれない電気信号として回線を占有する時間
- 他フレームとの競合
- 90% のノードで、128バイトフレームと競合
- 10% のノードで、1522バイトフレームと競合
上記条件でのビーコン・フレーム巡回時間は表1 のモデルケースだ。「図4 リング構成パラメータと性能」のリング・ノード50台/ビーコン・アナウンス巡回時間(赤枠)はこのモデルケースの数値だ。参考のため他フレームとの競合がない最短時間と、全てのノードで最大長フレーム(1522バイト)と競合する最長時間も併記した。最短と最長は10倍以上の違いがある。大きな揺らぎ時間だ。標準イーサネットの弱点だ。表2 と表3 は巡回時間計算に必要なパラメータだ。

競合条件 | 巡回遅延時間(μ秒) | 備考 |
---|---|---|
他フレームとの競合なし | 650 | (5+7+1)×50台 |
モデルケース | 1810 | (5+7+1+12)×5台+(5+7+1+124)×45台 |
最大長フレームと常に競合 | 6850 | (5+7+1+124)×50台 |
遅延要素 | 自演時間(μ秒) | 備考 |
---|---|---|
ビーコン・フレーム遅延時間 | 7 | ビーコン・フレームは64バイト+プリアンブル8バイト+ギャップ12バイト |
内部処理遅延時間 | 5 | ビーコン・フレーム受信から送信開始までのCPU処理時間 |
100mケーブル伝搬遅延時間 | 1 | UTP ケーブル伝播遅延 |
128バイトフレーム遅延時間 | 12 | 128バイト+プリアンブル8バイト+ギャップ12バイト |
1522バイトフレーム遅延時間 | 124 | 1522バイト+プリアンブル8バイト+ギャップ12バイト |
内部処理時間 | 競合フレーム | ビーコン・フレーム | ケーブル伝搬遅延 | 合計遅延時間 | |
---|---|---|---|---|---|
競合なし | 5 | 0 | 7 | 1 | 13 |
128バイトフレームと競合 | 5 | 12 | 7 | 1 | 25 |
1522バイトフレームと競合 | 5 | 124 | 7 | 1 | 137 |
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