フィールドバスの実現技術(1)フィールドバスの実現技術

物流や工場の自動化ネットワークは、フィールドバス、産業用ネットワーク、FA ネットワーク、フィールドネットワークなど様々な呼び方がある。IoT 領域のフィールドバスの機能面で最も重要なことは、「ハード・リアルタイム」と「拡張性」だ。コスト面では「配線ケーブル削減」がある。車載ネットワークも IoT の一分野だが、一般的な IoT と少し異なり、重要項目は「ハード・リアルタイム」と「配線ケーブルの削減」だ。一度販売した自動車内部に新しい機器を取り付けるケースはかなり限られるため「拡張性」はさほど重視されない。ちなみに、IEEE委員会での車載用 Ethernet-TSN の議論では、初期の要求事項から「拡張性」が削除された。

  • ハード・リアルタイム性
  • 拡張性(センサ・アクチュエータ等の追加・削除)
  • 配線ケーブル削減
フィールドバスの要件機能概要IoT車載
ハード・リアルタイムモータ、センサ、アクセル、ブレーキなどは、一定時間内での処理が必要
拡張性フィールドネットワークでは、マルチドロップ方式で装置やセンサの拡張・撤去が必要。車載用途では重要度は低い×
配線ケーブル削減部材費と工事費のコストダウン。車載ではケーブル実装場所が限られる
表1 フィールドバスの要件

主なフィールドバス

現在、グローバル市場シェアの大きいフィールドバスは下記の5種類だ。

  • PROFIBUS DP
  • Modbus-RTU
  • CC-Link
  • CANopen
  • DeviceNet

フィールドバスの要件である「リアルタイム性」、「拡張性」、「配線ケーブル削減」の点から、伝送路や同期方式も集約していった。伝送路は、初期の RS232C や RS422 が衰退し RS485 に集約した。同期方式もクロック線を省略できる非同期(調歩同期)が主流になった。この連載では、フィールドバスの仕様や動作概要には触れないが、伝送技術の土台となる伝送規格とデータ構造には触れておきたい。

フィールドバスの電気的特性はRS485に集約し共通性がある。しかし、コネクタやケーブル等の物理層、データ形式や通信手順(プロトコル)は基本的には互換性がなく、異なる規格のフィールドバスを相互接続することはできない。

フィールドバスの実現技術

シリアル通信が主流

フィールドバスは、ケーブルを削減し盤設計や工事を簡略化できるシリアル通信がベースだ。シリアル通信とは、データ送受信の伝送路を1対(全二重通信/双方向通信)、または2対(半二重通信/単方向通信)を使用し、データを1ビットずつ連続で送受信する通信方式だ。これに対してパラレル通信は複数のデータ信号を同時に送受信する通信方式だ。

パラレル通信は、プリント基板上の CPU とメモリ間のような極短距離(数cm程度)ではデータ通信の大容量化・高速化に適しているが、長距離伝送での大容量化や高速化には向かない。パラレル通信では同時に伝送する個々のデータの遅れを調整するスキューコントロール(各ビットの時間ずれ調整)の技術的な限界があり、長距離伝送では極めて難しい。パラレル通信が衰退したもう一つの大きな要因が「ケーブルコスト」だ。制御用ネットワークでは、状況によっては 1km を超えるケーブルを敷設しなければならない。1対または2対のケーブルで済むシリアル伝送のほうが数10本のケーブルが必要なパラレル伝送より、ケーブルコストや敷設場所の削減で有利だ。

3種類の代表的なシリアル通信方式がある。

  • RS232C
  • RS422
  • RS485

RS232C/RS422/RS485

規格名最大ケーブル長最大速度接続方式通信方式動作信号レベルコネクタ備考
RS232C15m19.2kbps1:1全二重不平衡±15VD-SUB25
D-SUB9
RJ-45
不平衡型はノイズに弱い
ケーブル長が短い
RS4221.2km10Mbps1:N全/半二重平衡TTL規定なし伝送速度はケーブル長に依存
最大接続台数:10
RS4851.2km10MbpsN:M全/半二重平衡TTL規定なし伝送速度はケーブル長に依存
最大接続台数:32
表2 代表的シリアル伝送路規格

フィールドバスの主役は RS485 だ。制御アプリケーションが正常に動作するためには、データ伝送がデータ表示やデータ蓄積のタイミングに間に合わなければならない。また、設備コストや工事コストを下げるために、複数機器をバス接続し、より少ない信号線で通信を行う必要がある。これらの条件にマッチしたのが RS485 だ。

もっとも古い RS232C は、1:1接続のため、接続する端末類(センサやスイッチ等)に比例して信号線が増える。また、伝送距離が短くノイズに弱いため、使われなくなった。

RS422 は、RS232C の欠点である伝送距離・伝送速度・ノイズ耐力等を改善した規格だ。RS422 は基本的に単方向 1:N 接続で双方向マルチポイントに向かない。電気的な仕様がほぼ同じ(少し強化された)で、双方向マルチポイントの送受信が可能な RS485 に主役の座を奪われた。代表的なシリアル伝送路の仕様は、表 1-4 参照。

RS232C

RS232C の規格上の最大伝送速度は 20Kbps、最大距離は20mだが、一般的には19.2Kbps/15m以下で使用されている。本来は電話回線用のモデムインタフェースの規格だが、構造が簡単で少ない信号線(3本:送信データ/受信データ/信号グランド)で通信できるため、コンピュータ周辺装置のインタフェースとして普及したが、現在の主役は USB だ。

図1 RS232C 信号レベル

RS232C は、信号線とグランド線による不平衡伝送だ。RS232C 送受信データ信号は、0V(グランド)のレベルに対して上の電圧(+3~+25V)を論理「0」、下の電圧(-3~-25V)を論理「1」と決めている。±25V は絶対最大定格で、通常は ±15~±6V のレベルで通信を行う(図1 参照)。簡単で使い勝手の良い RS232C だが、フィールドバスとしては次のような欠点があり、これらの欠点をカバーするRS422が登場した。

  • 1:1 伝送:センサー等が増えるとケーブル本数が増える( 1:1当たり最小で3本必要)
  • ノイズに弱い:不平衡伝送のためコモンモードノイズ等に弱く誤動作の要因
  • 通信速度が遅い
  • 伝送距離が短い

RS422

RS422 は、RS232C の欠点をカバーする規格として登場した。 RS422 は平衡型の伝送路で比較的ノイズに強く、最大伝送速度は10Mbps以下、最大伝送距離は1.2km以下で、伝送距離が延びると伝送速度は低下する(図2 RS422 ケーブル長と伝送速度グラフ参照)。基本的には1:1の伝送路用の規格だが、1つの送信側に対し受信側は最大10個まで接続することができ 1:N 接続が可能だ。コネクタ等の規定はなく、電気的特性のみを規定されている。

図 1-12 RS422 ケーブル長と伝送速度
図2 RS422 ケーブル長と伝送速度

RS422 は、 2本の信号線で送受信を行い、2本の信号線の差で論理「1」と「0」が決まる平衡型の伝送路(作動方式)で、ノイズに強く比較的長い距離で通信ができる(図3 RS232C/RS422 ノイズ耐力)参照。

図 1-13 RS232C/RS422 ノイズ耐力
図3 RS232C/RS422 ノイズ耐力

伝送路に混入するノイズは2本のラインに同時に同程度加わり、電圧の差により論理が決まるため、ノイズの影響は相殺される。RS232C に比べノイズに強い伝送方式だ。

信号グランド(Signal GND)は、電気的特性を守り動作を安定化させるために必須だ。信号グランドを接続しないとノイズマージンが減少し、動作が不安定になる。

RS485 のようなマルチポイント接続型通信ネットワークを構築することはできない。

RS485

RS422 は基本的には1:1の伝送(point to point)だ。これをバス方式のマルチドロップ方式にグレードアップしたのが RS485 だ。RS485 は平衡型の伝送路で、電気的には RS422 とほとんど同じで、最大伝送速度(10Mbps以下)や最大伝送距離(1.2km以下)は変わらず、ノイズ特性も変わらない。

通信方式としては、2線式(半二重)と、4線式(半二重)の2つの方式があり、2線式が一般的だ。2線式 RS485 は1組(2本)の送受信線と信号グランド(Signal GND)の計3本で通信する。送受信線が1組なので、同時に送受信ができない半二重通信になる。4線式 RS485 は送信2本と受信2本の合計4本の送受信線と信号グランド(Signal GND)の計5本で通信する。送受信線は別々になっているので、送信/受信を同時に行う全二重通信だ。

RS485 は、最大32台のドライバーと最大32台のレシーバをバス接続し、分散システムをネットワーク化することができる。2線式であれば3本、4線式でも5本で済み、少ない信号線でネットワークを構成することができる優れた伝送方式だ。

RS232C/RS422/RS485 の違いは、図4 を参照。

図4 RS232C/RS422/RS485

工場・物流現場のネットワークの現状

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。