高周波基板設計の基礎(3)電磁波ノイズ発生の仕組み「ノイズ反射」

ノイズ反射

半導体デバイス等で発生したノイズは、伝送路を通りアンテナから放射される( 「図1 放射ノイズ発生原理」 )。電磁波の放射を抑えるためには、極力アンテナを少なくする(効率を下げる)ことだ。プリント基板のパターン、筐体内配線や筐体の金属部が意図しないアンテナになる。

図1 放射ノイズ発生原理
図1 放射ノイズ発生原理

ノイズ放射(空間伝導)には近距離で回路間で干渉を起こす「静電誘導」や「電磁誘導」と、遠距離まで影響を及ぼす「電波放射」がある。主な電磁ノイズ障害は電波による空間伝導が要因だ。ノイズの空間伝導には次の 3種類がある( 「図2 放射ノイズ発生原理」 )。

  • 静電誘導
  • 電磁誘導
  • 電波放射
図2 放射ノイズ発生原理
図2 放射ノイズ発生原理

静電誘導

ノイズ放射(空間伝導)の遮断は、金属等の良導体で対象物をシールドする。シールドの設置は、ノイズ発生源またはノイズ受信側のいずれでもよい。静電誘導は「図3 静電誘導」のように、ノイズ発生源とノイズ受信者間が浮遊容量で結合することで、ノイズ電流が流れる。浮遊容量は距離が近いほど大きくなる。静電誘導はノイズ電圧が高く、浮遊容量が大きいほど影響が大きくなり、ノイズ受信側のインピーダンスが高いほどノイズ電圧は大ききなる。静電容量を減らすために次のような対策を行う。

  • 距離を離す・・・距離の 2乗で減衰
  • 平行配線長を短くする・・・静電結合箇所を減らす
  • ノイズ発生源の電圧を下げる・・・駆動電圧や反射等
  • 受信側のインピーダンスを下げる・・・配線パターンを太く短く
  • 静電シールドをする・・・電界の影響を遮断
図3 静電誘導
図3 静電誘導

電磁誘導

電流が流れると周囲に磁界を作る。磁界によって周囲の回路が影響を受ける現象を「電磁誘導」と呼ぶ。2つの回路間の相互インダクタンスにより、ノイズ受信側の回路に誘導電圧が発生する。インダクタンスは回路が作るループインダクタンスになる。ループインダクタンスは信号線とリターン線(帰線)が作るループの大きさに依存し、ループ面積が大きくなるほどループインダクタンスは大きくなる。

電磁誘導によるノイズ電圧は、ノイズ発生源の電流が大きく、相互インダクタンスが大きいほど大きくなる。相互インダクタンスは、ノイズ発生源とノイズ受信側との距離が短く、並行している部分が多いほど大きくなる。電磁誘導を減らすために次のような対策を行う。

  • 距離を離す・・・距離の 3乗で減衰
  • 電流ループ面積を小さくする・・・信号線と帰線のルートが重要
  • 電流ループ同士を直交させる・・・実際は困難
  • ノイズ発生源の電圧を下げる・・・駆動電圧や反射等
  • 受信側のインピーダンスを下げる・・・配線パターンを太く短く
  • 電磁シールドをする・・・電界の影響を遮断

金属板をノイズ発生源とノイズ受信側の間に配置し、金属板を貫通する磁束を遮断する。磁束の遮断効果は金属板に流れる渦電流によるため、磁性体である必要はなく渦電流が流れる必要がある。渦電流は表皮効果により表面付近を流れるため、一定の厚さが必要になる(金属により異なる)。

電磁シールドは、渦電流により磁界を消滅させるため、原理的には GND に接続する必要はないが、電磁誘導と静電誘導の両方の役割を兼ねることが多いため、一般的には信号 GND に接続する( 「図4 電磁誘導」 )。

図4 電磁誘導
図4 電磁誘導

電波放射

静電誘導と電磁誘導は比較的近距離で起きる現象だ。静電誘導の強さは距離の 2乗に反比例し、電磁誘導の強さは距離の 3乗に反比例する。静電誘導と電磁誘導対策は、回路間の距離を離すことが効果的だ。電波放射も距離に応じて減衰するが、減衰の度合いが低く遠距離まで影響を与える。ノイズ放射の空間伝導は、近距離では「静電誘導」と「電磁誘導」が主で、遠距離では「電波放射」が主になる。

電波放射が遠方まで影響を及ぼすのは、ノイズを放射するアンテナ近傍の電磁界構造に原因がある。アンテナに近い部分を「近傍界」、アンテナから遠い部分を「遠方界」と呼び、ノイズ発生源からの距離が λ/2π 辺りで切り替わる。100MHz では 50cm、1GHz では 5cm ほどになる。近傍界では距離の 2乗または 3乗で減衰するが、遠方界では距離に比例して減衰する。つまり、静電誘導や電磁誘導に比べ、電波放射は遠方では減衰しづらいため、遠方まで影響が及ぶことになる。

図5 近傍界と遠方界
図5 近傍界と遠方界

放射ノイズが空中を伝搬する時、遠方界では電界と磁界は一定の比率(377Ω)になる。電界と磁界の比率を「波動インピーダンス」と呼ぶ。近傍界では電界と磁界のバランスが一方に偏り、波動インピーダンスが大きい場所と小さい場所がある(場所により不安定)。遠方界では波動インピーダンスが安定する。

ダイポールアンテナの近くでは電界が強く、近傍界では電界は距離の 3乗で減衰し、磁界は距離の 2乗で減衰する。ループアンテナの近くでは逆に磁界が強く、磁界は距離の 3乗で減衰し、電界は距離の 2乗で減衰する。遠方界では、何れも電界と磁界の比率(波動インピーダンス)は 377Ωになる。この切り替わり点は、100MHz で約 50cm 、1GHz では約 5cm になる。

図6 ダイポールアンテナとループアンテナの電界・磁界強度イメージ
図6 ダイポールアンテナとループアンテナの電界・磁界強度イメージ

意図しないアンテナが構成されるのは「図7 意図しないアンテナ」のような場合だ。基本的なアンテナにはダイポールアンテナとループアンテナがある。図6 の例では、未実装半導体のパッドにつながったプリント基板パターンが「ダイポールアンテナ」になり、電源パターンからGND パターンへの経路がループアンテナを形成した場合だ。

図7 意図しないアンテナ
図7 意図しないアンテナ

意図しないアンテナが構成されるのは「図8 意図しないアンテナ(スタブ)」のような場合だ。図7 の例では、未実装部品の配線がダイポールアンテナになっている。

図8 意図しないアンテナ(スタブ)
図8 意図しないアンテナ(スタブ)

意図しないアンテナが構成されるのは「図9 意図しないアンテナ(筐体・ケーブル)」のような場合だ。図8 の例では、筐体とケーブルがダイポールアンテナになっている。

図9 意図しないアンテナ(筐体・ケーブル)
図9 意図しないアンテナ(筐体・ケーブル)

ダイポールアンテナ

2本の線に電圧をかけると電界が発生し、電波を放射することで「ダイポールアンテナ」になる( 「図10 ダイポールアンテナ」左)。アンテナが長くなるほど電波は強くなる。2本の線の全体長さが約 1/2 波長に近い長さになると強い電波を放射する。ダイポールアンテナの片方を GND に接続すると「モノポールアンテナ」になり、全体の長さが約 1/4 波長の長さになると強い電波を放射する。波長と周波数は次のような関係になる。

図10 ダイポールアンテナ
図10 ダイポールアンテナ

ループアンテナ

図11 ループアンテナ」の様に、一周する線に電流が流れると磁界が発生し電波を放射することでアンテナになる。配線が長くなり、ループの面積が広くなると強い電波を放射する。一周の線の長さが波長の整数倍付近で強い電波を放射する。

図11 ループアンテナ
図11 ループアンテナ

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。