Power over Ethernet(12)802.3bt(PoE++) – 接続手順|Classification

Classification(分類)

Classification は、PSE が PD に割り当てる電力を両者で調停するプロセスだ。PD が一定の電力を要求し PSE が電力を割り当てる。802.3bt で新たに高電力タイプ3 と タイプ4 が導入されことで、Classification は拡張された。Classification(物理層分類)は、Detection が正常に完了した後実行され、Classification が正常に終了すると、給電を開始する(図1 PoE 接続手順とプローブ信号)。

このプロセスで、PSE と PD は接続されたデバイスを相互に認識しタイプを判別することができる。このプロセスには「物理層分類」と「リンク層分類」があるが、ここでは「物理層分類」を説明し、「リンク層分類」には触れていない。

従来規格の 802.3af/802.3at では Classification 自体がオプション扱いで、PSE が Classification を実装する場合は、「物理層分類」か「リンク層分類」のいずれかを実装すればよく、PD は両方実装することになっていた。例えば、PSE が「リンク層分類」のみ実装している場合は、接続時にデフォルトのクラス0 が選択され、接続完了後「リンク層分類」でさらに電力を微調整することになる。つまり、初期動作では十分な電力を供給するが最適な電力ではない仕組みだった。802.3bt ではここが変更になっている。

802.3bt で規定されたタイプ3 とタイプ4 では「物理層分類」が必須になり、「リンク層分類」は供給電力の微調整に使用するように改められた。802.3af/802.3at 準拠デバイスを選択する際は、「物理層分類」を実装したデバイスを選択すべきだが、私が調べた範囲では「物理層分類」を実装していないデバイスはなかった。

図1 PoE 接続手順とプローブ信号
図1 PoE 接続手順とプローブ信号

Classification は複数のクラスイベントで構成される。各クラスイベントで PSE は所定の電圧を駆動し PD は電流を消費することで応答し、電力クラスが順次決定する。「図2 タイプ 2 Classification」は、従来規格(802.3at)のタイプ2 PSE がタイプ2 PD への電力供給を調停するプロセスとタイミングだ。この例では、PSE はクラス4 PD に対して 2つのクラスイベントを生成し、PD は各クラスイベントでクラス4 の電力を要求している。両者で調停が完了すると給電を開始する。

図2 タイプ 2 Classification
図2 タイプ 2 Classification

PSE は PD に対し、PSE は 電圧をマークレンジまで下げることにより、PD に対しクラスイベントの終了を知らせる。この方式は初期の PoE(802.3af)ではサポートしていない。

802.3bt のタイプ3 とタイプ4 では Classification 手順のクラスイベント数を増やすことで、機能を拡張している。「図3 タイプ 3/4 Classification」は、802.3bt のタイプ4 PSE がタイプ4 PD への電力供給を調停するプロセスだ。この例では、PSE はクラス4 PD に対して 5つのクラスイベントを生成し、PD は各クラスイベントでクラス7 の電力を要求している。両者で調停が完了すると給電を開始する。

(注)クラス割り当てとクラス要求の関係は「表3 電力クラス認識変化」及び「降格(power demotion)」項目参照

図3 タイプ 3/4 Classification
図3 タイプ 3/4 Classification

ここではシングルシグネチャの Classification 動作説明に限定している。デュアルシグネチャは動作が大きく異なるため今回の解説の対象外とした。

PSE が 「Classification Range:Vclass」の電圧を所定時間かけると、PD は「クラスイベント」の開始を認識する。クラスイベントの後に「Mark event Range:Vmark」の電圧に下げることで、直前のクラスイベントが終了したことを PD は認識する。PD はクラスイベントの間消費する電流は「class signature」と呼ばれ、0~4 までの 5段階あり、それぞれが供給電力レベルを表している。このサイクルを繰り返すことで、PSE とPD は、相互に電力クラスを調停することができる。PSE が生成するクラスイベントの数と、各クラスイベントで PD が消費する電流(class signature x)の組み合わせで電力クラスが決定する。

表1 PSE タイプとクラスイベント数」は、PSE タイプとクラスイベント数の対応表だ。電力クラスが高いほどイベント数が増加する。電力クラスと各クラスイベントで PD が消費する電流(class signature x)の関係をまとめたのが「表2 PD 要求クラスと class signature」だ。「図3 タイプ 3/4 Classification」の例はクラス7 のため、class signature は、4→4 → 2 → 2 → 2 となる。

表1 PSE タイプとクラスイベント数
表1 PSE タイプとクラスイベント数
表2 PD 要求クラスと class signature
表2 PD 要求クラスと class signature

表2 PD 要求クラスと class signature」の最初の 2つのクラスイベントは、従来規格との互換性を保つためタイプ1/2(802.3at)と同じだ。クラスイベント3 以降が従来規格を超える電力ラスを要求するための拡張部になる。表中のスラッシュで囲まれたところは(例:/1/)、802.3bt 規格に準じた機器では発生しないが、PSE から規定回数を超えるクラスイベントが発生した場合を想定した動作を規定している。つまり、PSE の誤動作に対する備えだ。

この表からわかるように、従来規格のタイプ1/2 の PSE にはクラス5 以上の PD を判別する手段がないため、あたかもクラス4 の PD に見える。「図3 タイプ 3/4 Classification」の例にあるように、5回のクラスイベントの途中段階では、最終的な電力クラスが認識できない。「表3 電力クラス認識変化」はクラスイベントの進行に伴い PSE が認識する電力クラスの遷移を表している。また、この表ののクラスイベントを PSE は実行してはいけないことを表している。緑色は要求したクラスと割り当てられたクラスが一致した状態で、茶色は要求通りの電力が割り当てられず「降格」になった状態を表している。PSE は順次電力を割り当てていくが、不足すると「降格」電力を割り当てる。降格については後程説明する。

表3 電力クラス認識変化
表3 電力クラス認識変化

Classification には PD への電力割り当て以外にもいくつかの機能がある。

降格(power demotion)

ほとんどの PoE 対応 Ethernet スイッチは、全ポートに最大電力を供給できる十分な電力容量を持っていない。802.3af/at 対応のギガイーサ対応24ポートスイッチで、168ワットの PoE 給電能力のある製品がある。802.3af/802.3at の最大給電電力は、ポート当たり 30ワットで、24ポートでフルに電力を供給するためには 720ワット必要になる。168ワットは 23% に相当し、フルに給電できるポートは 5ポートに過ぎない。

PD が要求した電力を PSE が供給できない場合、PD の要求電力より少ない電力を割り当てる方法として「降格(power demotion)」がある。例えば、80ワットの電力を供給できる PSE がある。すでに幾つかの PD に電力を割り振り、残りが 80ワットになった状態だ。80ワットは「図4 クラス別給電」の赤矢印の領域にあり、クラス7 には十分だが、クラス8 には対応できない。

PD がクラス7 以下を要求した場合は、要求された電力を割り当てることができる。しかし、クラス7を超える電力(クラス8)を要求されると対応できない。そこで、PD の「降格」を行う。PSE は PD をタイプで認識するため、PD にタイプ4 を割り当てられないためタイプ3 に降格する。PSE は 80ワットの電力が残ってはいるが、タイプ3 の最高電力 60ワット(クラス6)を割り当てることになる。「【再掲】表3 電力クラス認識変化」のクラスイベント4 を実行し、電力不足のためクラスイベント5 を実行しない状態(赤枠内)だ。

図4 クラス別給電
図4 クラス別給電
【再掲】表3 電力クラス認識変化
【再掲】表3 電力クラス認識変化

PSE の PD へのタイプ通知

クラスイベント1 (初回クラスイベント)の長さで PSE は PD に「タイプ」を通知することができる。各タイプの長さは次のようになる。

タイプ1

6ミリ秒~75ミリ秒

タイプ2

6ミリ秒~30ミリ秒

タイプ3/タイプ4

88ミリ秒~105ミリ秒

PD の熱負荷低減

クラスイベントを短縮することで、PD の消費電力を削減し熱負荷を下げることができる。クラスイベント2~5 の最大長を 20ミリ秒に短縮

マークイベント追加

従来規格のタイプ1 ではマークイベントが不要(曖昧)だったが、802.3bt ではクラスイベントの後にマークイベント生成が必須になった。この機能により PD はクラスイベントの長さを監視できるようになった。

Classification 未対応機器

タイプ1 PD の Classification はオプションだ。Classification 機能を実装していないタイプ1 PD は、クラスイベントで class signature0 を提示する(実際は応答しないだけ)。802.3bt の PSE は、このクラス0 をクラス3 要求とみなして対処する。つまり、802.3bt の PSE には「クラス0」は存在しないことになる。

PSE/PD タイプ相互認識

PSE と PD がお互いのタイプを正しく認識することで、PoE を円滑に運用することができる。しかし、従来規格(802.3af/802.3at)と 802.3bt の互換性をとるため、制約や曖昧さが残っている。

例えば、PD がタイプ3 またはタイプ4 で、PSE の残された電力供給がクラス3(15.4ワット)以下の場合、基本ルールに従えば PSE は 1回のクラスイベントしか実行できないが、PD のクラスを識別するためには少なくとも 3回のクラスイベントの実行が必要になる(表4 PD 要求クラスと class signature)。

表4 PD 要求クラスと class signature
表4 PD 要求クラスと class signature

そこで、このような場合、PSE は 3回のクラスイベントをとりあえず実行し、一時的に最大クラス4(30ワット)の電力を割り当てる。その後、Classification リセットにより PD を初期化し、一時的に与えた「最大クラス4 の電力」設定を削除する。その後更に、1回のクラスイベントを実行し、供給可能な電力であるクラス3(15.4ワット)を設定し給電を開始する。つまり、最初の Classification サイクルで PD タイプを調べ(proving)、その後設定リセットと正規の Classification サイクルの実行で、正しい給電を開始することができる。

電圧を少なくとも 15ミリ秒の間 2.8ボルト未満に下げると、PD はリセット動作を実行する。また、PD タイプの調査(proving)では、クラスイベント1 を通常より短い 6ミリ秒~20ミリ秒に短縮する場合もある。通常のクラスイベント1 の長さは 88ミリ秒~105ミリ秒の長さだ。proving サイクルは、互換性を確保するために 802.3bt が複雑化した典型的なケースだ。

PSE は接続された PD のタイプを検出し、PD は PSE のタイプを相互認識できるが、幾つかの曖昧さが残り、常に相手を特定できるとは限らない。「表5 要求クラスと PD タイプ」に示すように、PD の要求クラスでタイプを検出できるが曖昧さが残る。クラス4 以下の要求では、PD タイプ1/2/3 の区別ができない。

表5 要求クラスと PD タイプ
表5 要求クラスと PD タイプ

PD が認識する PSE タイプは、クラスイベント1 の長さで判定し、タイプ1/2 とタイプ3/4 は常に区別できる(表6 クラスイベント1 による PSE タイプ判定)。PD にこの区別が重要な理由は、省エネルギー動作で MPS と Short MPS のどちらを使用するかを判断するためだ。Short MPS は後程説明する。

表6 クラスイベント1 による PSE タイプ判定
表6 クラスイベント1 による PSE タイプ判定

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。