イーサネットの物理層(13)個別規格 10BASE5/2/-T 符号化/マンチェスタ符号

符号化

物理層の基本機能は、1と0で表現されるデジタルデータを電気信号に変換しケーブルに流すことだ。最も簡単な変換は、「1」を電圧のハイレベル(例えば5V)に、「0」を電圧のローレベル(例えば 0V)に変換すれば、信号を送ることができる。この変換方式として NRZ(Non Return to Zero:非ゼロ復帰)符号がある。イーサネットは「埋込クロック同期」方式を採用しているため、受信データからクロックを抽出する必要がある。クロックを抽出し CDR(Clock Data Recovery)を正しく動作させるためには、一定期間内に必ずデータ信号を反転させる必要がある。残念なことに NRZ 符号は、「0」や「1」が連続するとデータの反転がなくクロックを抽出できない(図1 NRZ 符号)。

図1 NRZ 符号とマンチェスター符号
図1 NRZ 符号とマンチェスター符号

そこで、10BASE5/2/-T はデータのビット毎に必ず信号が反転する「マンチェスタ符号」を採用した。マンチェスタ符号は、図1 の様に基準クロックサイクル内で低から高への変化(立上り↑)で「1」、高から低への変化(立下り↓)で「0」を表す方式だ。この方式は送信信号にクロックが含まれるため、CDR (Clock Data Recovery)も容易に実現できる。「1」と「0」もほぼバランスが取れるためランレングス問題も発生しない。また、マンチェスタ符号の最高周波数は「1」か「0」が連続したときに発生する。この周波数はビットレートと同じ 10MHz になる。マンチェスタ符号は別名 1B2B 変換とも呼ばれる。1ビットを2ビットに変換する方式のため、信号の生成に最高周波数の2倍のクロックが必要なため高速処理に向かない欠点がある。

媒体(ケーブル)の許容周波数は表1 を参照いただきたい。当時、10BASE-T 用に設定された カテゴリ3 UTP ケーブルの最高周波数は 16MHz で 10BASE-T の最高周波数(10MHz)をカバーしている。もちろん、カテゴリ4 以上のケーブルを使用することもできる。現時点で カテゴリ2 ~ カテゴリ4 ケーブルはほぼ入手できず、カテゴリ5 以上のケーブルしか入手できない状態だ。

表1 撚対線カテゴリ一覧
表1 撚対線カテゴリ一覧

また、マンチェスタ符号化された信号は直流成分にデータは依存せず、信号の立上りと立下りの変化だけが意味を持っているため、AC結合にも適応できる。パルストランスで直流分をカットする「AC 結合」方式のイーサネットに好都合だった。

埋込クロック/AC 結合動作要件

  • 一定期間内でのデータの反転
  • 「0」と「1」のバランス
  • 媒体の許容周波数以下

マンチェスタ符号

マンチェスタ符号(Manchester coding)は、マンチェスタ大学で磁気媒体記録用に開発された。かつて、1600bpi(bit per inch)の磁気テープ(オープンリール)で広く使われた方式だ。磁気テープではマンチェスタ符号とは呼ばず位相符号化(PE:Phase Encoding)方式と呼ばれた。1600bpi の 磁気テープは既に市場からなくなったが、現在でも RFID 等で使われている方式だ。マンチェスタ符号の送受信回路は比較的単純で実装も容易だが、伝送速度の2倍のクロックが必要になり高速化に向かないため 100Mbps 以上ではマンチェスタ符号を採用していない。

マンチェスタ符号の動作は次のような原則に従って動作している。イーサネットのデータ表現は周期中央での立上りで「1」、立下りで「0」だが、逆に立ち上がりで「0」立下りで「1」を表現する方式もあるので注意が必要だ。

マンチェスタ符号の動作(イーサネット)

  • 各ビットは固定周期で送受信(10MHz)
  • 周期中央でのレベル変化で「1」「0」を表現
    • 立上りで「1」、立下りで「0」
  • 周期開始時のレベル変化に意味がない
  • 信号レベルの High/Low にも意味はない

イーサネットの物理層

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。