イーサネットの物理層(21)個別規格 1000BASE-X 概要

伝送媒体に光ファイバーを使用する 1000BASE-X は、撚対線を使用する 1000BASE-T より1年早く1998年に標準化を完了している。同時にギガビットイーサに対応する GMII の標準化も完了した。1000BASE-X は、 1000BASE-SX/-LX/-LX10/-BX10 等の様々な規格が作られた( 表1 )。伝送媒体の光ファイバーにはマルチモードファイバーとシングルモードファイバーがあり、複数のグレードが流通している。表2表3 は各種ファイバーの概略仕様だ。光ファイバー購入時は、各メーカの仕様を確認いただきたい。減衰量等が異なることがあるためだ。 100BASE-FX では SC コネクタを推奨しているが、SC/ST/FDDI-MIC コネクタの仕様を許したことで幾らかの混乱を招いた。そこで、1000BASE-X の規格化では、混乱を避けるため SC コネクタのみが規格化された。

名称規格媒体波長最大伝送距離芯数
1000BASE-SXIEEE 802.3z-1998MMF850nm550m2
1000BASE-LXIEEE 802.3z-1998SMF/MMF1310nm1000m2
1000BASE-LX10IEEE 802.3ah-2004SMF/MMF1310nm10km2
1000BASE-EX業界標準SMF1550nm40km2
1000BASE-LH業界標準SMF1310nm40km2
1000BASE-ZX業界標準SMF1550nm70-120km2
1000BASE-BX10IEEE 802.3ah-2004SMF1310/1490nm10km1
表1 1000BASE-X 規格
表2 マルチモードファイバー
表2 マルチモードファイバー
表3 シングルモードファイバー
表3 シングルモードファイバー

1000BASE-X 関連規格

1000BASE-SX

1998年に IEEE802.3z で標準化された 1000BASE-SX は、マルチモードファイバー(MMF)を2本使用する。光信号源は 850nm のレーザー(製品によっては LED)を使用し、最大伝送距離は 550m だ。ファイバー特性により伝送距離が異なる。コア径 62.5μm FDDI ケーブルでは最短の 220m 、コア径 62.5μm OM1 ケーブル(MMF)では 275m 、コア径 50μm
OM2 ケーブル(MMF)では最長の 550m の伝送が可能だ。 SXは「Short wavelength」の意味で、短波長の光を使用することを表している。

1000BASE-LX

1998年にIEEE 802.3zとして標準化された 1000BASE-LX の伝送路は、マルチモードファイバー(MMF)またはシングルモードファイバー(SMF)を2本使用する。光信号源は波長1270~1355nm のレーザー(製品によっては LED)を使用し、最大伝送距離は 5km だ。ファイバーの特性により伝送距離が異なる。OM1~OM3(MMF) では最長550m、OM4 (MMF)では最長 1000m の伝送が可能だ。OS1(SMF)では最長 5km の伝送が可能だ。 LX は「Long wavelength」の意味で、長波長の光を使用することを表している。

1000BASE-LX10/BX-10

2004年にIEEE 802.3ahとして標準化された 1000BASE-LX10 の伝送 路はマルチモードファイバー(MMF)またはシングルモードファイバー(SMF)を2本使用する。マルチモードファイバーでの伝送距離は 550m で 1000BASE-LX と同じだ。シングルモードファイバーを使用することで 10km の伝送ができる。光信号源は波長 1310nm でのレーザーを使用する。1000BASE-LX10 をベースに 1310nm と 1490nm の2つの光源を使用し、1本のファイバーで全2重通信を行う方式が 1000BASE-BX10 だ。もちろんシングルモードファイバーのみ使用できる。1本の光ファイバーで送受信を同時に行う方法を「1芯伝送」と呼ぶことがある。

1000BASE-X

伝送路に光ファイバを使用する 1000BASE-X は、その後様々なバリエーションが登場した。 1000BASE-EX/-LH/-ZX 等だ。これらは IEEE の規格ではなく様々なベンダーが製品を提供しており、業界標準として流通している。SFP を差し替えることで各種ファイバや伝送距離に対応する形で運用されている。しかし、各社の製品互換性問題もあり、SFP や光ファイバーの仕様を確認する必要がある。ルータやスイッチ機器ベンダーによっては、各機器ベンダーが指定する SFP 以外は認識せず接続できないケースもある。十分な注意が必要だ。

1000BASE-X では、8B/10B 符号化技術を使用している。この符号化技術は ANSI が規定した ファイバーチャネルの方式を流用している。イーサネット陣営の得意とする「既存技術を活用し、いち早く標準化する」考え方がここでも登場する。1000BASE-X の「X」はここでは
FDDI 技術の流用ではなくファイバーチャネルの技術だ。時期は分からないが、「X」は FDDI から光ファイバーを意味するように変わったようだ。相変わらず、ネーミングは混乱している。

伝送媒体に撚対線を使用する 1000BASE-T では、コネクタやケーブルから放射する電磁妨害波 (EMI)を抑える必要がある。光ファイバーを使用する 1000BASE-X では電磁妨害波は発生しないため電磁妨害波を抑える機能は必要なく、物理層は 1000BASE-T に比べシンプルな構造になっている。1000BASE-X の物理層は、構造上は RS/PCS/PMA/PMD/AN の5階層に分かれている。オートネゴシエーション機能を備えているが、ファイバーの伝送特性等により伝送速度の切り替え等ができないため、実質的には存在しない。PCS 副層で 8B/10B 変換を行い、PMA 副層で シリアル化後 PMD 副層で NRZ 変換後光信号に変換している(図1)。

図1 1000BASE-X 物理層副層
図1 1000BASE-X 物理層副層
4B/5B 変換、8B1Q4 変換、8B/10B 変換 表記は大文字?小文字?

今回の記事では、例えば8ビットデータを10ビットに変換する方式を「8B/10B」と表記している。一般的に電気通信の世界では、ビット(bit)を小文字の「b」、バイト(Byte)を大文字の「B」と表記することになっている。これらの表記は明らかにこのルールに違反している。

そこで、イーサネット関連の様々な情報を調べたてみた。その結果、IEEE802 関連では大文字の「8B/10B」と表記している。しかし、半導体ドキュメントでは小文字表記の「8b/10b」が大勢を占めているようだ。英文 Wikipedia も小文字表記になっている。大文字表記と小文字表記が入り乱れている状況のようだ。私の感覚としては、小文字の「b」は数字の「6」に誤読される可能性があるように思う。このような背景を踏まえ、基本ルール違反だが今回は「IEEE802」流儀に従い「大文字表記」で統一した。

PCS/PMA/PMD 副層での変換イメージは図2 だ。ここで最も重要な役割を果たすのが「符号化」だ。符号化には2つの役割がある。 1つ目は、 1/0 連続数を制限し一定期間内に確実な信号反転があり、正常に CDR/PLL が動作することでクロック同期を取り続けることだ。2つ目は、 1/0 個数の差を一定範囲内に収めることで AC 結合が正しく動作することだ。

図2 1000BASE-X 副層の役割(送信)
図2 1000BASE-X 副層の役割(送信)

オリジナルの8ビット送受信データでは「1/0 連続数制限による確実な信号反転」や「1/0 数の差制限」を施すことはできない。そこで、8ビットデータを10ビットに拡張し、4倍の候補の中から適切なコードを割り当てることで、これらの課題を解決する手法が 8B/10B 符号化だ。

イーサネットの物理層

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。