イーサネットの物理層(18)個別規格 1000BASE-T 概要

1000BASE-T は、10BASE-T/100BASE-TX の後継規格として 1999年に IEEE 802.3ab として標準化された。伝送媒体はカテゴリ5以上の撚対線を使用し、最大伝送距離は 100m だ。当時既存の 100BASE-TX と同じカテゴリの撚対線を使用でき、オフィス用に留まらず家庭用にも普及した。しかし、カテゴリ5は4対全てを使用することを想定していなかったため、一部仕様を変更したカテゴリ 5e が EIA/TIA-568 で2001/2002 年に規定された。現在は、カテゴリ5e 以上の撚対線の使用がお薦めだ。

1000BASE-T は、撚対線の4組8本をすべて使用し、各組で 250Mbps の双方向通信を行い4組で 1000Mbps(250Mbps×4) 全2重通信を実現している。1000BASE-T は既に普及していた 10BASE- T/100BASE-TX との半2重通信での互換性を持つ最後の「イーサネット」規格だ。半2重通信での互換性を保つためには衝突検出などの CSMA/CD 機能が必須になる。これを実現するために「Carrier Extension」と「Frame Burst」の機能を搭載したが、日の目を見ることはなかったようだ。「Ethernet の正当な継承者」を主張したのだが、既に半2重通信に逆戻りするユーザはほぼ居なかった。

1000Mbps イーサネットの各規格

1000BASE-TX

競合規格として 1000BASE-TX が 2001年にTIA/EIA-854として標準化された。伝送路としてカテゴリ6以上の撚対線で伝送距離は最長 100m だ。撚対線4対の内2対を送信専用、2対を受信専用とし、各対で 500Mbps の通信を行うことで 1000Mbps(500Mbps×2)全2重通信を実現している。規格化当時は、ケーブルはやや割高だが、1000BASE-T より回路構成がシンプルなため低価格化を期待された。しかし、先行した 1000BASE-T 機器の急速な低価格化と普及により製品化前に敗退し、市場に投入される前に消滅した。標準化作業2年の遅れと、IEEE で規格化されなかったことが致命的だったようだ。

1000BASE-CX

1000BASE-CX は、1998年にIEEE 802.3zとして規格化された。伝送路として2芯平衡型シールド同軸 ケーブル(150Ω twin coax cable)で、コネクタはD-sub9 コネクタまたは HSSD コネクタを使用し、最長 25m の接続が可能だった。通信キャリア等のラック内配線での使用を期待されたが、普及しなかった。ケーブルが特殊で伝送距離も短く、コネクタが RJ45 ではなかったことが災いしたようだ。

1000BASE-X

伝送媒体に光ファイバを使用する 1000BASE-X は様々な規格が作られた。1000BASE-SX は、1998 年にIEEE 802.3zとして規格化された。伝送媒体はマルチモードファイバ(MMF)を2芯使用し、最大伝送距離は 550m だ。1000BASE-LX も、1998年に IEEE802.3z で規格化された。マルチモードファイバ(MMF)を2芯使用する場合の最大伝送距離は 550m で、シングルモードファイバ (SMF)を2芯使用する場合の最大伝送距離は 5km になる。1000BASE-LX10 は、2004年に IEEE802.3ah で規格化され最大伝送距離は 10km だ。伝送路に光ファイバを使用する 1000BASE-X はその後様々なバリエーションが登場する。現在は、SFP を差し替えることで各種ファイバや伝送距離に対応する形で運用されている。この点は、100BASE-FX と似ている。

1000BASE-T

1000Mbps イーサネットは様々な規格が登場したが、撚対線は 1000BASE-T に集約し、光ファイバは 1000BASE-X + SFP に集約している。

1000BASE-T 開発時、100BASE-TX 用ケーブルとして「カテゴリ 5UTP」が既に広く普及していた。次世代規格の 1000Mbps イーサネットをいち早く普及させ競合規格に勝つためには、カテゴリ
5UTP のインフラを活用することが重要なテーマで、「既存規格の正統な後継者」と主張する重要な要素でもあった。

1000BASE-T は 1000Mbps を実現するために、カテゴリ 5UPT の4対全てを使用する方式を採用した。1対当たり 250Mbps で4対同時に送信すれば 1000Mbps(250Mbps×4)になる。しかも、各対に送信信号と受信信号を多重化(混在)することで全2重通信を実現できる。1対撚対線に送信と受信信号を多重化する手法は、1997年にIEEE 802.3yとして標準化された 100BASE-T2 で既に実用化されていた。4対撚対線の内2対を使い双方向通信を行う。送受信信号を分離合成するハイブリッド回路や DSP によるエコー除去やクロストーク除去を行い2対同時に双方向で送受信ができる。スクランブル処理で 0 や 1 の連続が少なくなる処理や、符号処理に PAM5(5- level Pulse Amplitude Modulation) を使用しフレームの開始や終了コードを備えている。 1000BASE-T はこの技術を拡張することで短期間で標準化を実現した。

10BASE-T/100BASE-TX/100BASE-T2/1000BASE-T の通信イメージは図1 を、RJ45 コネクタの 信号配列は表1 を参照いただきたい。

図1 10/100/1000Mbps 通信イメージ
図1 10/100/1000Mbps 通信イメージ
表1 10/100/1000Mbps MDI 信号配列
表1 10/100/1000Mbps MDI 信号配列

イーサネットの物理層

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。