イーサネットの物理層(11)物理層規格の概要

イーサネットは40年以上に渡り規格が追加・修正された歴史がある。10Mbps の 10BASE5 から始ま り、400Gbpsまで拡張されている。今回は、IoT や車載ネットワークでの直近の使用が想定される 10Mbps から1000Mbps の範囲でよく使われる規格に絞り解説したい。様々な派生規格があるが、使用実績が多い規格と今後普及が見込まれる規格は図1 の青枠内の規格だ。今回は対象外だが、図2 は 2.5ギガから100ギガまでの規格一覧だ。

図1 物理層規格一覧(1Mbps~1000Mbps)
図1 物理層規格一覧(1Mbps~1000Mbps)
図2 物理層規格一覧(10Gbps~100Gbps)
図2 物理層規格一覧(10Gbps~100Gbps)

改めて整理すると今回の解説対象は図3 の8種類だ。

図3 解説対象規格一覧
図3 解説対象規格一覧

ネーミング

初期のイーサネット伝送媒体は50Ωの同軸線で始まった。伝送速度も 1M ビット/秒と10M ビット/秒しかなく、変調方式も Base Band 変調と Broad band 変調だけだ。この時点でこれらを区別するために作られたネーミングルールは、図4 の様に簡単なものであった。伝送速度、変調方式と媒体の最大伝送距離を組み合わせで名前を決める。例えば、10Mbps の BASE バンド変調で同軸線の最大長が500m の方式は「10BASE5」になる。

図4 初期のネーミングルール
図4 初期のネーミングルール

その後、伝送速度は400ギガビット/秒まで高速化し、伝送媒体も撚対線(ツイストペア線)や光ファイバーが登場した。光ファイバーも用途に応じ様々な伝送距離の規格が登場した。都度、ネーミングルールが変更され、現在は図5 のようになっている。伝送速度と変調方式は基本ルールを踏襲しているが、伝送媒体の表記はかなり場当たり的な対応に見えるが、今のところ次のようなルールになっている。

  • 同軸線の長さ 500m を表す「5」と、200m(実際は185m) を表す「2」が最初に登場。
  • 撚対線( Twisted Pair )と光ファイバー(Fiber)を表す –T と –F が登場。
  • 撚対線は送受信各1ペアだったが、送受信各2ペア(-T2)や双方向4ペア(-T4)が登場。
  • FDDI の技術流用を示す「X」が登場した。その後「X」は通信媒体に光ファイバーを使用する意味に変わっていく。
  • 光ファイバーと車載対応で、伝送距離を表す「S(Short)」と「L(Long)」が登場。
図5 現在のネーミングルール
図5 現在のネーミングルール

物理層副層

イーサネットの物理層は複数の「副層」で構成されている。初期のイーサネットは、符号変換を行う 「PLS:Physical Layer Signaling」副層と、同軸線に対応した電気信号に変換する「PMA:Physical Medium Attachment」副層の2つの副層で物理層を構成していた(図6 (a))。符号変換は「埋込クロック同期」を実現するために、クロックを確実の取り出せる方式が採用された。当時は 10BASE5 のみで様々なバリエーションに対応する必要がなく、このようなシンプルな構成になった。

図6 10Mbps と 100Mbps 以上の物理層構成
図6 10Mbps と 100Mbps 以上の物理層構成

100Mbps 登場以降は状況が変わった。図6 をご覧いただきたい。伝送速度に応じた様々な MII の 登場により、各種 MII の違いを吸収する「RS:Reconciliation Sublayer」副層が必要になった。伝送速度も 100Mbps から 400Gbps へと拡張された。「埋込クロック同期」の要件も厳しくなり様々な符号化技術が登場する。符号化を行う副層は「PCS:Physical Coding Sublayer」と名前を変えるが、 10BASE5 の「PLS:Physical Layer Signaling」と同等だ。次に、将来に備えてフレーム単位でエラー訂正が可能な「FEC:Forward Error Collection」副層が規定された。この副層はオプション扱いで、一般的なオフィス用イーサネットでは実装されていない。車載ネットワークでは FEC 機能が提案されている。

10BASE5 では物理層に対応した電気信号への変換を「 PMA:Physical Medium Attachment」副層で実行していたが、100Mbps 以降は2つの副層に分割された。100Mbps 以降の符号変換はバイト等の複数ビット列を変換し、エラー訂正機能 FEC も複数ビット列からエラー訂正コードを作る。この複数ビット列(パラレル)データをシリアルデータに変換する「PMA:Physical Medium Attachment」副層に加え、「PMD:Physical Medium Dependent」が追加された。PMD はシリアル変換されたデータ列を通信媒体に対応した電気信号や光信号に変換する副層になる。

撚り対線で接続された機器間で、通信速度や半2重/全2重通信などの様々な通信パラメータを自動設定する機能が追加された。これをオートネゴシエーション(Auto-Negotiation)と呼ぶ。「AN: Auto-Negotiation」は、この機能に対応した副層だ。AN もオプションになっている。

イーサネット原形の 10BASE5 のシンプルな階層構造から将来も見据えた階層構造へと機能が追加されたが、基本構造としては FEC と AN が追加されただけだ。100Mbps 以降の物理層副層と上位層 (第2層)の概要は図7 と「物理層副層の定義(IEEE802.3u)」を参照いただきたい。

表7 物理層副層一覧
表7 物理層副層一覧

ケーブルやコネクタ類も「イーサネット物理層」として説明することが一般的だが、ケーブルやコネクタ規格は IEEE802.1 の対象外だ。ISO/IEC 等の規格化団体や業界団体でケーブルやコネクタの規格化が行われている。

物理層副層の定義(IEEE802.3u)

  • 100BASE-X PCS 副層(物理符号化副層)
    • PCS 副層とRS 副層間のインタフェースはMII。
    • MII が要求する下記サービスを提供する。
      • (1)MIIデータの符号化(4B5B 変換)
      • (2)キャリア検知や衝突検知
      • (3)下位副層の PMA 副層にシリアルデータを渡す
      • (4)上位の MII と下位の PMA との調整
  • 100BASE-X PMA 副層(物理媒体アタッチメント副層)
    • 物理媒体の仕様を支援するの中間副層。リピータ機能も提供する。
    • 下記機能を実行する。
      • (1)上位副層と下位副層間のコードビットの対応付け
      • (2)上位層への下位層(PMD)の有効性を知らせる。AN(Auto-negotiation)と同期をとる
      • (3)下位層(PMD)のキャリ検知、キャリアエラー検知
      • (4)受信エラーの検知
      • (5)下位層(PMD)の NRZI 符号からクロック抽出
  • 100BASE-X PMD 副層(物理媒体依存副層)
    • 100BASE-X シグナリングは、FDDI シグナリング標準 ISO/IEC 9314-3:1990 及び ANSI X3.263-1996 に従う。
    • これらの PMD 副層のシグナリング標準は、マルチモード光ファイバー、STP 及び UTP 配線に対応し 125Mbps 、全2重シグナリングシステムを規定している。

イーサネットの物理層

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。