イーサネットの物理層(6)全体階層構造

Ethernet TSN は第2層(データリンク層)を主に機能強化している。同時に、車載ネットワークを意識した第1層(物理層)にも新たな規約を策定した。車載ネットワークでは省スペースと重量削減が大きな課題で、これに対応するため1対(2本)のメタルケーブルで約15m 伝送を可能にする物理層が新たに追加された。まず、100BASE-T1 と 1000BASE-T1 が決まり、最近になって 10BASE-T1S/2.5GBASE- T1/5GBASE-T1/10GBASE-T1 が追加された。車載ネットワークでは、これらの新しい規格が採用される可能性が高い。一方、IoT 分野では、新しい物理層にこだわる理由はなく従来の撚対線や光ファイバーなどの物理層を採用する可能性が高い。このような状況を踏まえ、Ethernet TSN で新たに追加された機能の影響を確認すると共に、用途に応じ物理層を切り替えることができる仕組みを解説したい。

図1 は、アプリケーションデータ送受信モデルだ。送信データは順次下位層に引き渡され、その都度ヘッダ情報が付加される。最終的に物理層で電気信号や光パルスに変換され、伝送路を経由し受信ノードに届く。受信データは、各階層での処理が正常に終了するとヘッダ情報を削除し、順次上位層に引き渡す。最終的に、全てのヘッダ情報が削除され元のデータに戻る。

図1 OSI 階層構造
図1 OSI 階層構造

Ethernet TSN では、第2層(データリンク層)と第1層(物理層)の一部に変更を加えている。第3層の IP や第4層の TCP/UDP には一切手を入れていないため、第3層以上への影響はない。注意が必要なのは、「プリエンプション」による物理層の変更だ。図2 は、プリエンプションによるフレーム変更箇所だ。物理層で付加されたりチェックする箇所が変更されている。既設のイーサネット機器との互換性が保たれるかはかなり疑問だ。プリエンプションを採用する際は、慎重な互換性確認が必須だ。

(参考)Ethernet TSN(8)時分割多重におけるプリエンプションの概要

図2 プリエンプション変更箇所
図2 プリエンプション変更箇所

イーサネットフレームは、デファクトスタンダードの「Ethernet II」形式と「IEEE802.3」形式があり、 VLAN タグの有無で4つのパターンがある。Ethernet TSN は VLAN タグが必須のため、プリエンプションの影響を受けるのは VLAN タグ付きに限定される。「IEEE802.3」形式はめったにお目にかからないが、 IEEE 委員会が制定したプロトコルで使用されている。例えば、RSTP(Rapid Spanning Tree Protocol) を制御する BPDU(Bridge Protocol Data Unit)などで使われている。

プリエンプションによる変更を除けば、イーサネットフレームの変更や機能追加は無く、従来と変わりがない。

物理層には、様々な通信速度や伝送距離により伝送媒体は同軸線、撚対線、光ファイバー、無線など様々な種類がある。物理層が変わるたびに、第2層と第1層間の接続を新規に開発したのでは、時間やコストの無駄が多い。IEEE802.3 委員会はこの問題に対処するため、伝送速度が 10Mbps から 100Mbps へと拡張される段階で、第2層(MAC)と第1層(PHY)間の共通インタフェースとして「MII( Media Independent Interface)」を IEEE802.3u として制定した。MII が決められたことで、第2層以上を再設計したり交換することなく、様々な伝送速度や伝送媒体に接続できるようになった。まさに、論理層を物理媒体から独立させる(media independent)なインタフェースだ。その後、新たな規約の追加に対応し MII は拡張された。様々な MII の登場により、これらを総称して xMII と呼ぶことが多い。 10Gbps 以下 のイーサネット規格一覧は図3 を、伝送媒体、伝送速度の組み合わせは図4 を参照いただきたい。

各種イーサネット物理層解説の前に、論理層(第2層)と物理層(第1層)をつなぐ xMII を説明したい。

図3 イーサネット規物理層規格
図3 イーサネット規物理層規格
図4 物理層種類
図4 物理層種類

イーサネットの物理層

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。