工場・物流現場のネットワークの技術(2)リアルタイム性とは何か

リアルタイム性とは、要求される時間内かつサイクリックに処理が完了できることだ。テレビなどの家電機器、医療機器、自動改札機などの身近な機器から、工作機械や物流機器などのFA分野の機器まで、処理が完了するまでの時間が設定されている。いつまでも処理が終わらないようなことはない。車載システムには多くのECU(自動車制御用CPU:Engine Control Unit)が搭載されていて、これらのECUはエンジンやハンドルの制御、ブレーキ制御を行っている。もしも自動車のブレーキ制御が決められた時間内に処理できなければ、車が止まらず事故が発生するリスクがある。

工場・物流現場のシステムや車載システムに組み込まれた多くの機器には、リアルタイム性が重要だ。要求される期限やサイクルは機器により異なる。リアルタイム性は、「ハード・リアルタイム」と「ソフト・リアルタイム」の2種類に大別される。「ハード・リアルタイム」と「ソフト・リアルタイム」は、決められた期限やサイクル内に処理が完了しない場合に致命的な事故が起きるか否かで決まる。具体的な処理時間で境界を明確に分けることはできないが、大筋1ミリ秒あたりに境界があるようだ。

図1 非リアルタイムとリアルタイム

図1は非リアルタイムとリアルタイムのイメージだ。企業内LANで実行されるアプリケーションは、非リアルタイムサービスだ。時間的な制約は小さく、失敗した場合は再試行(リトライ)すれば済む。ソフト・リアルタイムの代表例は、座席予約システムだ。処理が遅れても致命的ではないが、遅すぎると評判を落とし使われなくなる危険性がある。ハード・リアルタイムの例は、工作機械の制御や自動車のブレーキ制御等だ。処理時間の要求レベルは多様だが、要求時間内に処理が完了しないと、工場の停止や事故につながる。

ソフト・リアルタイム

ソフト・リアルタイムは、定性的な表現をすれば「緩やかなリアルタイム」だ。ハード・リアルタイムに比べ期限やサイクルの制約が緩やかで、利用者が許容できる範囲で処理が完了するか、やり直し(リトライ)で機能を回復できれば受け入れらる。ハード・リアルタイムは、決められたられた期限やサイクルで処理が完了しないと価値はゼロになるが、「ソフト・リアルタイム」は、処理時間遅れによって徐々に価値が減少し、致命的な事故が発生するリスクはほとんどない。しかし、ソフト・リアルタイムとは言え基本的には決められた期限やサイクルで処理を完了するように設計すべきだ。あまりに頻繁に処理遅れが発生すると、「利用者の許容範囲」を超える恐れがある。

ソフト・リアルタイムの例

  • 銀行ATM
  • 自動販売機
  • 座席予約システム

ハード・リアルタイム

ハード・リアルタイムは、定性的な表現をすれば「厳しいリアルタイム」だ。決められた期間やサイクルで必ず処理が完了しなければならない。決められた期限やサイクルで処理が完了しない場合、致命的な事故が発生したり、壊滅的な結果となるリスクがある。また、決められた時間内に処理ができないと、その処理・システムや機器の価値はゼロになる。例えば自動車制御の場合、ほとんどのケースで「ハード・リアルタイム」が要求される。

ハード・リアルタイムの例

  • 自動車エンジン/ハンドル/ブレーキ/エアバッグ制御
  • 航空機制御
  • 各種プラント制御
  • 自動倉庫制御

工場・物流現場のネットワークの現状

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。