QoS(2)産業用イーサネット の QoS

産業用イーサネット の QoS

産業用イーサネットには、Ethernet/IP、PROFINET、EtherCAT や Ethernet TSN などがある。 「バス共有」の考え方を持ち込んだ産業用イーサネットは、優先制御や帯域制御などの QoS 機能は必要なく、従来型イーサネットと同じ「パケット交換」方式の産業用イーサネットでは QoS が必要になる。

バス共有とパケット交換のいずれの考え方を採用するかは、「リアルタイム性」に依存することが多い。「ハード・リアルタイム」対応の産業用イーサネットは「バス共有」の考え方に基づき、帯域超過やフレーム競合などが発生しない方式を採用している。一方「非リアルタイム」と「ソフト・リアルタイム」対応の産業用イーサネットは、従来型イーサネットとの互換性を重視し「パケット交換」方式を採用していることが多い。

図1 は、様々な産業用ネットワークのリアルタイム性と QoS との関連図だ。方式ごとにかなり明確に色分けされるが、PROFINET-IRT と Ethernet TSN は、時刻同期で分割された時間帯ごとに「ハード・リアルタイム」と「非リアルタイム/ソフト・リアルタイム」が混在するので注意が必要だ。

図1 リアルタイム性と QoS の関係
図1 リアルタイム性と QoS の関係

バス共有型の産業用イーサネット

EtherCAT

EtherCAT はマスタが送信した「イーサネットフレーム」が各スレーブを巡回し、マスタに戻る方式だ。スレーブを通過する際に、On The Fly 方式で所定の領域を読み書きする。応答サイクルは不要だ。しかも、1組の通信線でフレーム巡回ができるため、配線も少なく済む(図2)。フレーム構造はイーサネットそのものだが、考え方は「バス共有:シングルマスタのフィールドバス」だ。優先制御や帯域制御などの QoS は必要ない。詳しくは、EtherCAT の解説を参照いただきたい。

図2 EtherCAT の基本動作
図2 EtherCAT の基本動作

PROFINET

PROFINET は RS485 ベースの PROFIBUS(フィールドバス)の後継規格として始まった。PROFINET は3タイプで構成され、非リアルタイムの NRT、ソフト・リアルタイムの RT 、ハードリアルタイムの IRT に分かれる。 NRT はTCP/IP・UDP/IP と従来のイーサネットを使用するオフィスネットワークと同じ構成だ。RT は TCP/IP・UDP/IP を使用しないが、従来のイーサネットを使用し、 VLAN で優先制御を行う。NRT と RT は、「パケット交換」方式そのものだ。

IRT は 2つのイーサネットポートを持つ専用 LSI を順次1対1接続し、制御データ専用時間帯とその他のデータ用時間帯に時分割多重を行う方式だ。PROFINET-IRT の Red Period(制御データ専用時間帯)は、 EtherCAT 同等の「バス共有」の考え方だ。

PROFINET-NRTNon Real Time
PROFINET-RTReal Time
PROFINET-IRTsochronous Real Time

パケット交換型の産業用イーサネット

PROFINET

PROFINET-IRT は、イーサネット・ポートを2つ持つ専用 LSI で使用し、順次1対1接続する構造だ。マスタ送信フレームは、マスタ→スレーブ1→スレーブ2→スレーブ3→・・・と順次カットスルーで伝搬する。ここでは、フレームの競合は起きない(図3)。

PROFINET-IRT の基本動作
図3 PROFINET-IRT の基本動作

マスタと全てのスレーブは時刻同期を取り、3つの時間帯で1サイクルを構成する(図4)。ハード・リアルタイム性が必要な制御データを送受信する時間帯(Red period)、その他のデータを送受信する時間帯(Green period)と Green period のフレームが次の Red period に入り込まないための Yellow period (Yellow Safety Margin)の3つの時間帯だ。遅延時間を考慮し Red period とGreen period は Cut through 方式、次段以降への影響を考慮し Yellow period は Store & Forward 方式になっている。

時刻同期を使いリアルタイム性に応じて時間帯を分ける考え方は、Ethernet TSN と同じだ。この辺りの考え方は、本連載の「時分割多重」と「プリエンプション」を参照いただきたい。PROFINET の動作は、改めて解説の予定だ。

図4 PROFINET-IRT の通信フェーズ
図4 PROFINET-IRT の通信フェーズ

イーサネット

パケット交換の本質的課題・・・強靭な耐障害性と引き換えに輻輳が発生

現在のイーサネットや TCP/IP の起源は、1967年に始まった「ARPANET(Advanced Research Projects Agency NETwork)」だ。軍事利用のための先端技術開発組織として、1958年に ARPA (Advanced Research Projects Agency:高等研究計画局)が発足し、資金提供テーマの一つとして開発されたのが「 ARPANET 」だ。当時、ARPA は軍事目的に限定せず、一般公募で様々な研究開発に資金を提供していた。この点で、ARPANET が軍事利用目的であったか否かは議論の分かれるところだ。

ARPANET で採用された「パケット交換」は、データをパケット(小包)と呼ばれる単位に小分けし転送する。受信側では小分けにされたパケットを集め元のデータに再構成する。小分けされた各パケットには宛先情報を付け、途中の回線や中継装置が故障し通過できない場合は、パケットは別経路を迂回し宛先に届く。

加入者交換機や中継交換機に機能が集中する「回線交換」では、交換機の故障は致命的で通信網全体に影響が及ぶ。交換機能が分散する「パケット交換」は、障害に強い通信網を作ることができる。自律分散経路制御を行う「パケット交換」は、障害には強いが新たな問題を生むことになる。図5 の様に、通信路で障害が発生すると別経路に迂回する。迂回した経路によっては、通信帯域を超過しパケット廃棄が発生することがある。いわゆる輻輳の発生だ。パケット交換では、輻輳がいつどこで発生するかを予測することは難しい。これが、イーサネットが誕生時から抱える本質的な課題だ。

パケット交換
図5 パケット交換

QoS

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。