産業用イーサネット(7)EtherNet/IP Ⅵ DLR 動作概要 と障害検知

障害検知

主な障害検知は2種類だ。1つは隣接するノードとのリンク切断(Link off)、もう一つはビーコン・フレームのタイムアウトだ。図1 はリンク切断のケースで、この例では、Node-3 とNode-4 の間が切断された。リンクが切断されるとイーサネットのハードウェアは即座にこれを検出できる。障害を検出した2台のノードは、障害検知フレームをリング・スーパーバイザに送る。リング・スーパーバイザはビーコン・フレームのタイムアウトを待たずに障害を短時間で検出することができる。

ビーコン・フレームもアナウンス・フレームもリンク切断で巡回せず、いずれタイムアウトが検出される。ビーコン・フレームは400マイクロ秒に1回、アナウンス・フレームは1秒に1回送信されるため、リンク切断通知のほうが早く到達する可能性が高い。

リンク断は障害時だけではなく、装置交換や増設等で日常的に発生する。このような状態をいち早く検出し、何事もないかのように動作を継続することが産業用ネットワークでは重要だ。

リングの障害検知
図1 DLR リングの障害検知

リング・スーパーバイザは障害を検知すると、即座にネットワークの再構築を開始する。リングに障害が発生し遮断されたため、リング構造ではなくなり図2 のようにライン構造に変わる。EtherNet/IP がリング構造とライン構造をサポートするのは、障害時にライン構造に変化するためだ。

DLR リングの再構築1
図2 DLR リングの再構築1

ライン構造に変わると、ループ箇所がなくなるため遮断点を先ず開放し、Ling Node-3 と Ling Node-4 の未接続ポートはブロックされる。リング・スーパーバイザは両ポートからビーコン・フレームとアナウンス・フレームを送信する。しかし、 Line 構造のためフレームは巡回しない。EtherNet/IP はこの状態で動作を続け、リンク再接続を待つ。

障害復旧

Line Node-3 と Line Node-4 間のリンクが復旧すると、各ノードはリンク復旧をリング・スーパーバイザに通知する。通知を受けたスーパーバイザは初期状態に戻り、リングを再構築する(図3)。

DLR リングの再構築2
図3 DLR リングの再構築2

ノード内蔵スイッチの要件

リング・スーパーバイザやリング・ノードは、イーサネット・スイッチと CPU を内蔵している。内蔵スイッチと CPU は次の要件を満たす必要がある。下記項目の概要については今回は解説しないが、別の機会で解説する。

  • 10/100Mbps、全二重/半二重:必須要件
  • 通信速度と全2重/半2重の強制設定:必須条件
  • フロー制御オフ:推奨要件
  • 自動MDIX:推奨要件
  • オートネゴシエーション:推奨機能
  • QoS 2レベル:必須要件
  • QoS 4レベル:推奨要件
  • 802.1Q/D :必須要件(非IPパケットで使用)
  • DSCP:推奨要件(IPパケットで使用)
  • CPU のブロードキャスト レート制限 :推奨要件(帯域幅の1%)
  • CPU宛てユニキャスト/マルチキャストのフィルタリング:推奨機能

障害検出・回復時間

EtherNet/IP は、ビーコン・フレームやアナウンス・フレームの巡回時間、タイムアウト時間、障害検出時間や障害から回復しリングを再構築する時間を定めている。これらの時間計算の基本となるのが、ビーコン・フレームとアナウンス・フレームの DLR リング巡回時間だ。巡回時間を計算するにあたり、問題となるのはスイッチでの他のフレームとの競合だ(「産業用イーサネット(3)EtherNet/IP Ⅱ」図2、図3 参照)。

リング構成パラメータと性能
図4 リング構成パラメータと性能

図4 は、ノード数とビーコン送信間隔ごとのビーコン巡回時間や障害検出時間のガイドラインだ。これらの数値の基本となるのがビーコン/アナウンスの巡回時間だ。巡回時間のイメージを図5 、各ノードでの遅延時間の構成を図6 に示す。

ビーコン/アナウンス巡回時間
図5 ビーコン/アナウンス巡回時間
各ノードの遅延時間
図6 各ノードの遅延時間

ビーコン/アナウンス巡回時間は、スイッチでの他フレームとの競合で発生する待ち時間に次のようなモデルを設定している。

  • 前提条件1:ビーコン・フレームの長さは64バイト
  • 前提条件2:フレーム間ギャップ12バイト/シンク8バイト(図7):フレーム長に含まれない電気信号として回線を占有する時間
  • 他フレームとの競合
    • 90% のノードで、128バイトフレームと競合
    • 10% のノードで、1522バイトフレームと競合

上記条件でのビーコン・フレーム巡回時間は表1 のモデルケースだ。「図4 リング構成パラメータと性能」のリング・ノード50台/ビーコン・アナウンス巡回時間(赤枠)はこのモデルケースの数値だ。参考のため他フレームとの競合がない最短時間と、全てのノードで最大長フレーム(1522バイト)と競合する最長時間も併記した。最短と最長は10倍以上の違いがある。大きな揺らぎ時間だ。標準イーサネットの弱点だ。表2表3 は巡回時間計算に必要なパラメータだ。

イーサネットフレーム構造
図7 イーサネットフレーム構造
競合条件巡回遅延時間(μ秒)備考
他フレームとの競合なし650(5+7+1)×50台
モデルケース1810(5+7+1+12)×5台+(5+7+1+124)×45台
最大長フレームと常に競合6850(5+7+1+124)×50台
表1 巡回遅延時間
遅延要素自演時間(μ秒)備考
ビーコン・フレーム遅延時間7ビーコン・フレームは64バイト+プリアンブル8バイト+ギャップ12バイト
内部処理遅延時間5ビーコン・フレーム受信から送信開始までのCPU処理時間
100mケーブル伝搬遅延時間1UTP ケーブル伝播遅延
128バイトフレーム遅延時間12128バイト+プリアンブル8バイト+ギャップ12バイト
1522バイトフレーム遅延時間1241522バイト+プリアンブル8バイト+ギャップ12バイト
表2 各要素の遅延時間
内部処理時間競合フレームビーコン・フレームケーブル伝搬遅延合計遅延時間
競合なし507113
128バイトフレームと競合5127125
1522バイトフレームと競合512471137
表3 フレーム競合による遅延時間

工場・物流現場のネットワークの現状

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。