産業用イーサネット(13)EtherCATのフレーム構造

EtherCATのフレーム構造

図1(A) に示すように、EtherCAT は標準イーサネットフレームを使用し、マスタは On The Fly 処理がないため、マスタ側のEtherCAT インタフェースは一般的なイーサネット・コントローラが使用できる。マスタ側に特別なハードウェアは必要ない。スレーブ側は、前述したように EtherCAT 専用のコントローラ(ESC)が必要だ。

EtherCAT を他のプロトコルと区別するために、上位プロトコルを示す「TYPE」は「0x88A4」が割り当てられている。オフィスネットワークのイーサネット上で他のプロトコル(例えば IP プロトコル)との混在が可能だ。図2で示すように、EtherCAT は TCP や IP プロトコル上で動作するのではなく、アプリケーションが第2層の ESC を直接制御する考え方だ。一般的なイーサネットでは IP パケットが入るところに EtherCAT データが入る(図1(B))。 EtherCAT データはヘッダとデータグラムで構成される(図1(C))。

EtherCAT はIEEE802.1Q VLAN タグを追加することも可能だ。しかし、スレーブの ESC は VLAN タグを受け付けるが処理はしないため 、VLAN ID や優先度は無視される(図1(D))。EtherCAT に IP プロトコルは必要ないが、UDP/IP にカプセル化することで、オフィスネットワークを通過することができる。UDP の宛先ポート番号が EtherCAT(0x88A4) のため、オフィスネットワークなどの標準イーサネットを「EtherCAT の経路」として使用することが狙いだ。この時、VLAN タグが付加されていると、通過するネットワークのポリシーに従い優先制御等が適用される(図1(E)図1(F)) 。

図27 EtherCAT OSI 階層モデル
図1 EtherCAT フレーム構造
図3 EtherCAT OSI 階層モデル
図2 EtherCAT OSI 階層モデル

参考 EtherCATフレーム詳細

図3 EtherCAT フレーム構造
図3 EtherCAT フレーム構造
領域データタイプ概要
Len11 bitLength:EtherCAT データグラム長(FCS を除く)
R1 bitReserved:予約ビット(常に0)
T4 bitType:プロトコルタイプ。ECS は EtherCAT コマンド(Type=0x1)のみサポート
表1 EtherCAT ヘッダ
領域データタイプ概要
CmdByteCommand:EtherCATコマンドタイプ
IdxByteIndex:重複または消失した Datagram の識別子。EtherCAT スレーブは変更できない
Address4 ByteAddress:アドレス
Len11 bitLength:Datagram の長さ
R3 bitReserved:予備(常に0)
C1 bitCirculating frame:循環フレームの有無
M1 bitMore datagrams:継続 Datagram の有無
IRQWord(2 Byte)Event Request:全ての EtherCAT スレーブからのイベント要求
Datan ByteRead/Write データ
WKCWord(2 Byte)ワーキングカウンタ
表2 EtherCAT データグラムヘッダ

EtherCAT 四方山話!?

EtherCAT は、正確なサイクル時間、極めて短い時間での全ノードの巡回、応答時間そのものの消滅、どれを取っても「革新的なアイデア」に満ち溢れている。イーサネットに長年携わってきたエンジニアには EtherCAT を発想することは容易ではない。図4 のように同じ回線を同じフレームが戻る仕組みや、独自のアドレス空間の設定などは、標準イーサネットからは大きく乖離した「別物」に近い。

EtherCAT の根幹である ESC は、イーサネット物理層(第1層)のEncoding/Decoding 方式や第2層のフレーム構造を流用している。しかし、制御方式は全くの独自方式だ。今後、 ESC 高速化には、標準イーサネットの転用は難しく、独自開発が必要になりそうだ。

100Mbps では、EtherCAT の処理性能は抜きん出ている。しかし、TSN を含む標準イーサネットの伝送速度が 1Gbps になると処理性能の優劣は逆転する。10Gbps ではその差はさらに広がる。今後の EtherCAT 高速版の動向を注視したい。

図29 EtherCAT 基本動作
図4 EtherCAT 基本動作

工場・物流現場のネットワークの現状

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。