産業用イーサネット(8)EtherCAT

EtherCAT

EtherCAT (CAT:Control Automation Technology)は、ドイツのベッコフオートメーション(Beckhoff Automation)が開発し、ETG(EtherCAT Technology Group)によって規格等が管理されているオープンな産業用イーサネットだ。トヨタが採用との報道があり、最近注目されている。EtherCAT は、イーサネットの物理層と第2層(リンク層)のフレーム構造は互換性があるが、標準イーサネットとは考え方が異なる通信方式だ。「ハードリアルタイム」を実現できる高速かつ低遅延で高効率の通信が特徴だ。最大で65,535台のノードと接続することができる。

EtherCATは、従来型イーサネットのようなフレーム衝突やフレーム廃棄がなく、TCP/IPのようなハンドシェイクもない。オーバーヘッドがなく帯域利用効率も高い。また、EtherCATのフレームフォーマットは基本的にイーサネットのMACフレームではあるが、あらかじめ各スレーブに領域が割り当てられている。マスタから送信されるフレームは、全てのスレーブを通過し、最後にマスタに戻る。フレームを受信したスレーブは、自分自身に割り当てられ領域を読み書きし、次段に渡す。従来型イーサネットのスイッチでは、フレームを全て受信しその後送信する「Store & Forward」が一般的だが、EtherCATはフレームの受信・内部処理と送信を同時に行う「On The Fly」方式だ。スレーブ内部の遅延が小さく「ハードリアルタイム」に適した方式だ。On The Fly 方式のフレームの動きは、Cut Through 方式と同じ考え方だ。データの読み書きタイミングが異なる。

参考
Section I – Technology (beckhoff.com)
6万人のメイドが“合体”!? EtherCATの通信方式:江端さんのDIY奮闘記 EtherCATでホームセキュリティシステムを作る(5)(3/8 ページ) – EE Times Japan (itmedia.co.jp)
Microsoft PowerPoint – EtherCAT Communication_070531.ppt (elmomc.com)

従来のRS485ベースのフィールドバスでは、ソフトウェアによるプロトコル処理時間を含めポーリングサイクルは決して早くない。EtherCATでは、100ノードを巡回しI/Oを更新する時間は30マイクロ秒足らずだ。

EtherCATのネットワークトポロジーはデイジーチェーンによるライン型が基本構成であるが、スター型・リング型も可能だ。通信経路障害やスレーブ障害によるネットワーク全体のダウンを防止するため、リング型による2重化もできる。「ハードリアルタイム」と「冗長性」を両立できる

図1 EtherCAT トポロジ
図1 EtherCAT トポロジ

従来型イーサネットのフレーム構造・物理層との互換性を持つ EtherCAT には次のようなメリットがある。

  • マスタには一般的なイーサネット機器を使用できる(マスタには EtherCAT 特有の機能が必要ない構成になっている)
  • ケーブル 等のネットワーク構成機器の共用化が可能
  • 標準規格によるマルチベンダー環境提供によるオープン化が可能

マスタには汎用イーサネット技術が転用できるが、スレーブは専用 LSI で構成するため、最新のイーサネット技術の転用には時間がかかる点は注意が必要だ。次の2点はいくらか疑問も残る。

  • イーサネット技術進化への追従により最新技術を活用できる?
  • イーサネット技術進化による帯域増(伝送速度アップ)によりアプリケーションやシステム構成の柔軟性や拡張性が生まれる?

EtherCAT の従来イーサネットとの互換性は表1 、工場や物流現場での EtherCAT の位置付けは、図2 を参照いただきたい。フレーム構造と物理層の互換性を保ちながら、強力な「ハードリアルタイム性」を狙ったネットワークだ。従来型イーサネット網との折り合いをつけるため、イーサネット網を UDP/IP で通過するオプションを用意している。

項目概要従来型イーサネット
互換性
備考
通信種類100BASE-TX/100BASE-FX100Mbps/全2重のみ
通信速度100Mbps100Mbps のみ
最大通信距離ノード間100m~20kmSTP:100m
マルチモード光ファイバ:2km
シングルモード光ファイバ:20km
トポロジライン/スター/リングメッシュ構造はサポートしない
最大接続台数65,535イーサネットは無制限
ケーブル仕様STP(CAT5/6/7)/光ファイバイーサネットはUTP
表1 EtherCAT 下位層
図2 EtherNet-IP 適用領域
図2 EtherNet-IP 適用領域

図3 はEtherCAT の OSI 階層モデルだ。第2層と第1層のPHY を一体化した専用 LSI (ESCEtherCAT Slave Controller)が提供されている。PHY の仕様は標準イーサネットと変わりないが、第2層のフレーム形式は同じだが制御方式は異なる。パルストランスとコネクタは共通だ。ケーブルは注意が必要だ。標準イーサネットのケーブルはUTP(シールドなし撚り対線)だが、EtherCAT はSTP(シールド付き撚り対線)だ。第3層から第6層までは規格上は明確には定義されていない。

図3 EtherCAT OSI 階層モデル
図3 EtherCAT OSI 階層モデル

工場・物流現場のネットワークの現状

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。