Ethernet TSN の QoS(6)その他時間帯の QoS:SPQ(絶対優先)

Ethernet TSN は、ハードリアルタイムが必要な工作機械などの制御データとその他のデータの時間帯を分けている。制御データが収まる「CDT専用時間帯」は、従来のフィールドバス同様に厳密なタイミングやデータ量設計を行うことが前提になっている。特別な仕組みはないが、データ量やサイクル時間があらかじめ決まっているため、確実に通信品質(QoS)を守ることができる(図1)

これに対し「その他時間帯」は、SRP や gPTP などのプロトコルデータ、映像ストリームやファイル転送などの Best Effort トラフィックが混在する。その他時間帯のトラフィック量は刻々と変化し予測できない。また、映像ストリームはパケット廃棄や遅延に敏感でバースト性が強い。映像のバースト性を緩和し、帯域の確保と遅延の抑え込みが必要になる。「その他時間帯」での QoS を実現するために、2つの仕組みが用意されている。SPQ(Strict Priority Queueing:絶対優先)方式の優先制御とCBS(Credit Based Shaper) と呼ばれるリーキーバケットモデルの帯域制御だ。

図1 時刻同期による時分割多重
図1 時刻同期による時分割多重

SPQ と CBS を運用する上での遅延時間、優先度やフレーム間隔等が予め決められている。例えば、 CDT クラスの「CDT 専用時間帯」は、1 サイクル 500マイクロ秒以下、End to End (送信元から宛先まで)の遅延時間は 100マイクロ秒以下で、経由する第2層スイッチ段数は5段以下と規定されている。CDT クラスはこれらの規定に適合するようにフレーム長やフレーム数を設計する必要がある。

その他時間帯に属するトラフィックもフレーム間隔や End to End の遅延時間が決められている。例えば、SR クラスAの場合は、フレーム間隔がイーサネット最大長フレームよりわずかに長い 125 マイクロ秒以上で、End to End の遅延時間は 2 ミリ秒以下になっている。これらは、SRP などのプロトコルが帯域設定や遅延確認を行い、中継する第2層スイッチが制御する仕組みだ。詳しくはこの先でお話ししたい。

クラス転送時間
フレーム間隔
End to End 遅延時間TSN 優先度スイッチ
最大Hop数
備考
CDT クラス500μ秒以下100μ秒以下別格5
SR クラスAフレーム間隔 125μ秒以上2m秒以下17クラスA/B合計が75%以下
SR クラスBフレーム間隔 250μ秒以上50m秒以下27クラスA/B合計が75%以下
Protocol Control Traffic35gPTP/SRP 等
Best Effort
表1 各クラスの特性

SPQ(絶対優先)

Ethernet TSN では、IEEE802.1Q で決められている VLAN タグ付きフレームが前提になっている。VLAN タグには8段階の優先度があり、7 が最高優先度、 0 が最低優先度だ。スイッチは各優先度に対応した 8 個のキューを用意し、受信フレームは優先度に応じて対応するキューに格納される(図2)。この例では、SRP/gPTP プロトコルの優先度は「3」、映像ストリームの SR クラス AとBはそれぞれ「5」と「4」、特に制御が必要でない Best Effort トラフィックには「1」と「0」を割り当てている。

図2 VLAN タグと個別キュー
図2 VLAN タグと個別キュー

しかし、ここで問題が起きる。ネットワーク上では、AVB クラスAとクラスB のストリームには優先度5と4が割り当てられている。しかし、Ethernet TSN では、 SR クラスAが最高優先度、 SR クラスBが2番目の優先度で、 SRP やgPTP などのプロトコルデータが3番目の優先度だ。優先度の再マッピングと SPQ への割り当てが必要になる。図2 の構成を IEEE802.1Qav のルー ルで再マッピングしたものが表2 だ。

トラフィックVLAN 優先度(7が最高優先度)SPQ 優先度(1が最高優先度)
※再マッピング後
SRP/gPTP プロトコル33
SR クラスA51
SR クラスB42
Best Effort-118
Best Effort-208
表2 再マッピング

ここで注意が必要なのは、VLAN の優先度は7が最も高いが、SPQ の優先度は1が最も高い。

SPQ(絶対優先)に、再マッピング結果を当てはめたのが図3 になる。SPQ では、最高優先度キューにパケットがある限る送信権を取り続ける。下位優先度キューは上位優先度のキューにパケットがある限り、何も送信することができない。この欠点を補うため、AVB クラスA と B には、送信権を制限しバーストを抑制するCBS(Credit Based Shaper )がある。SRP や gPTP などの制御データには特別な仕組みは用意されていない。制御データは送信間隔が十分広くデータ量も僅かなため、帯域を占有することがないためだ。

図3 再マッピング
図3 再マッピング

SPQ により、SR クラスA>SR クラスB>プロトコルデータ>Best Effort の優先度でパケットを送信できるようになった。これだけでは、高優先度のSR クラスA/B がネットワークを占有し、バーストも解消できない。 CBS(Credit Based Shaper)と呼ばれる帯域制御を導入することで、帯域保障とバースト抑制を実現している。

SR クラスが帯域を占有しないための方策として、クラスA とクラスB の合計帯域がネットワーク全体帯域の 75% 以下になることが定められている。実際の運用では、MSRP で設定した属性値を基に帯域が設定される(下記帯域計算参照)。

帯域計算(MSRP 属性)

Stream Bandwidth=(Max Frame Size + OH)×Max Interval Frames ÷ Interval Time

計算例

  • 100Mbps イーサネットで、SR クラスA ストリームのInterval time(125マイクロ秒)内で最大長フレームを0.1パケット送信した場合
  • 「Max Frame Size + OH 」は、Byte→bit→時間 と換算する必要がある
    Max Frame Size=1518Byte(物理層オーバーヘッドを除く) OH=24Byte
    フレーム送信時間=1528+24 Byte → 12,336 bit → 123.36 μ秒
    ∴ (Max Frame Size + OH)時間換算値=123.36マイクロ秒
    Max Interval Frames=0.1
    Interval Time=125マイクロ秒
    ∴Stream Bandwidth=(123.36/125)×0.1×100Mbps=9.8688 Mbps

Ethernet TSN の QoS

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。