Asking、Advertise、Ready メッセージを交換することで、Talker/Listener 間の帯域や遅延時間などの QoS リソース確保を行うことはすでに説明した。これら以外にも、Talker/Listener には、ストリーム優先度や帯域設定用などの幾つか属性値を持っている。
Listener 属性
Listener 属性には、 Asking と Ready が持つ4つのサブタイプと、ストリームを識別するStream IDがある。
Stream ID
ストリーム識別コードで、8バイトで構成される。6バイト(48ビット)はTalker の MAC アドレス、2バイト(16ビット)は同一 Talker から送信されるストリームの識別に使用する。Stream ID は Talker/Listener 共通になっている。
Sub Type
Talker 属性
Talker が発信する Advertise には属性として、次の2つの状態(Sub-Type)がある。また、 QoS 要件を設定するための様々な属性がある。
Sub type
Stream ID
Listener のStream ID と同じ
ストリーム識別コードで、8バイトで構成される。6バイト(48ビット)はTalker の MAC アドレス、2バイト(16ビット)は同一 Talker から送信されるストリームの識別に使用する。Stream ID は、当然だが Talker/Listener 共通になっている。
Data Frame Parameter
AV Bridge で使用するストリームのアドレス情報で、次の2つで構成される。

T-spec(Traffic Specification)
ストリームのトラフィック特性で、帯域制御で使用する重要なパラメータだ。次の3つで構成される。
帯域計算
- 100Mbps イーサネットで、SR クラスA ストリームの Interval time(125マイクロ秒)内で最大長フレームを0.1パケット送信とした場合
- 「Max Frame Size + OH 」は、Byte→bit→時間 と換算する必要がある
Max Frame Size=1518Byte(物理層オーバーヘッドを除く)
OH=24Byte
フレーム送信時間=1528+24 Byte → 12,336 bit → 123.36 μ秒
∴ (Max Frame Size + OH)時間換算値=123.36マイクロ秒
Max Interval Frames=0.1
Interval Time=125マイクロ秒
∴Stream Bandwidth=(123.36/125)×0.1×100Mbps=9.8688 Mbps
Priority and Rank
Accumulated Latency
Talker から Listener までの片方向最大遅延時間。ブリッジ 1台の片方向遅延時間は、図2 の「伝搬遅延」「挿入遅延」「シリアル化遅延」を合計した値の最大値になる。Talker から Listener までの片方向最大遅延時間は、各ホップの最大値を加算した値になる。伝搬遅延は gPTP でRTT(往復伝搬遅延時間)を測定し、その半分を片方向の伝搬遅延と定義している(図3)。挿入遅延は、フレーム受信から送信開始までの内部処理時間だ。各ブリッジ固有の値になる。 Ethernet TSN で想定している Store & Forward の挿入遅延は 5マイクロ秒だが、筆者の経験では、最近のスイッチの挿入遅延時間はせいぜい 1マイクロ秒程度と思われる。シリアル化遅延は、最大長フレームの送信時間になる。遅延時間の定義は「QoS(4)QoS 評価項目」を参照いただきたい。

片方向最大遅延時間は、SR クラスA は2ミリ秒、SR クラスB は50ミリ秒と規定されている。この値を超えると経路予約ができない。

SRP プロトコルに思うこと
SRP は、第2層で動作する便利なツールだ。しかしいくつか気になることもある。1つは、帯域確保が「先着順」になっていることだ。Rank を操作することで、緊急性の高いストリームを優先することはできるが、同程度の優先度のストリームは先着順だ。また、都度帯域を確保していく仕組みのため、全体像が見えなくなる。この辺りを改善するために、IEEE802.Qcc で集中管理の考え方が持ち込まれ改善されている。
もう一つ気になることは「遅さ」だ。映像を新たに表示するためストリーム配信に参加するには 200ミリ秒の待ち時間がある。この間は映像が表示されない。ストリーム配信から離脱するには 1000ミリ秒(1秒)かかる。この間ストリーム配信は止まらない。映像配信の反応の悪さは、過去にも同じことが起きている。IP マルチキャスト配信でも同様の事象が起き、映像表示と離脱を高速化する手法が登場した。IGMP Snooping やIGMP fast leave などだ。SRP でも同様な改善策が登場すると思われる。
Ethernet TSN の QoS
-
3-4.Ethernet TSN の QoS
Ethernet TSN の QoS(1)IntServ(イントサーブ)
Ethernet TSN の QoS 体系での位置づけは図1 のようになっていて、優先制御と帯域制御を組み合わせることで、リアルタイム性を実現している。優先制御は SPQ(Strict Priority Queueing […] -
3-4.Ethernet TSN の QoS
Ethernet TSN の QoS(2)Ethernet AVB 登場
従来のアナログ AV 機器は、ほぼ全ての機器を 1対1 でケーブル接続することが常識だ。しかも、ケーブルやコネクタ規格はインタフェースごとに異なるため、オーディオ機器の背面には多くのコネクタがあり、様々なケーブルが這いま […] -
3-4.Ethernet TSN の QoS
Ethernet TSN の QoS(3)IEEE 802.1Qat:SRP / 配信手順
SRP(Stream Reservation Protocol:ストリーム予約プロトコル)は、ストリームの配信経路を確定し、経路上のスイッチやエンドステーション(映像表示装置など)の帯域確保と最悪時の遅延時間の確認を行う […] -
3-4.Ethernet TSN の QoS
Ethernet TSN の QoS(4)IEEE 802.1Qat:SRP / MSRP 動作とストリーム配信の可否判断
ネットワーク構成を単純化したモデルで、改めて MSRP の動作と Talker と Listener が送信する各種パラメータを説明したい。 図1 はMSRP 説明モデルで、次の要素からできている。全ての要素には MSR […] -
3-4.Ethernet TSN の QoS
Ethernet TSN の QoS(5)IEEE 802.1Qat:SRP / MSRP 属性
Asking、Advertise、Ready メッセージを交換することで、Talker/Listener 間の帯域や遅延時間などの QoS リソース確保を行うことはすでに説明した。これら以外にも、Talker/Liste […] -
3-4.Ethernet TSN の QoS
Ethernet TSN の QoS(6)その他時間帯の QoS:SPQ(絶対優先)
Ethernet TSN は、ハードリアルタイムが必要な工作機械などの制御データとその他のデータの時間帯を分けている。制御データが収まる「CDT専用時間帯」は、従来のフィールドバス同様に厳密なタイミングやデータ量設計を行 […] -
3-4.Ethernet TSN の QoS
Ethernet TSN の QoS(7)その他時間帯の QoS:Credit Based Shaper(帯域制御)
CBS( Credit Based Shaper)の基本動作原理は、リーキーバケットモデルだ。図1 の様に、蛇口から注いだ水がバケツの穴から常に一定量漏れ出すモデルだ。さらに細かく分類すれば「 Leaky bucket […] -
3-4.Ethernet TSN の QoS
Ethernet TSN の QoS(8)全体動作検証
Ethernet TSN は、制御データを確実に伝送する「CDT 専用時間帯」と、プロトコル制御データ(gPTP、SRP 等)、映像ストリームやファイルなどの Best Effort データを伝送する「その他時間帯」に分 […]