Ethernet TSN の QoS 体系での位置づけは図1 のようになっていて、優先制御と帯域制御を組み合わせることで、リアルタイム性を実現している。優先制御は SPQ(Strict Priority Queueing)を、帯域制御は IntServ の考え方に基づいた、リーキーバケットモデルによるシェーピングを取り入れている。

本来の IntServ は「IP ネットワーク(第3層)の通信フローごとに帯域や最大遅延時間を確保する」仕組みだ。第2層での動作が前提の Ethernet TSN ではそのままでは使えない。そこで、候補になったのが Ethernet AVB(Audio Video Bridging) だ。Ethernet AVB は、複数台のAVB機器を Ethernet で接続し、音声と映像を組み合わせたシステムの構築を可能とする規格だ。
Ethernet AVB で策定された IEEE802.1AS/802.1Qat/802.1Qav は全て第2層で動作する都合の良い規格だ。しかし、IntServ の考え方は Ethernet TSN の QoS を理解する上で参考になるため、簡単に紹介したい。
IntServ(Integrated Service:イントサーブ)
IntServ は、 IP ネットワークの通信フローごとに資源の予約を行い、帯域や最大遅延時間を確保する QoS 保証通信サービスだ。IntServ には、帯域を確保し最大遅延を保証するプロトコルとして RSVP( Resource reSerVation Protocol:資源予約プロトコル)がある。フローが通過する経路を RSVP のメッセージが通ることで、経路上の資源を予約する仕組みだ。IntServ は IETF RFC1633 等で規定されている。
IntServ には次の2つのサービスがある。
IntServ の課題
IntServ は実際にはほとんど使われていない。使われない一つ目の理由は、各ルータが保持する情報量が膨大になることだ。ルータはフローごと(例えば、TCP のセッションごと)に状態を記憶し更新しなければならない。末端のルータではそれほどの量にはならないが、コアルータでは膨大な情報量になり処理できない。つまり、スケーラビリティの問題を抱えている。
もう一つの理由は、フローを生成する前に RSVP で帯域や最大遅延時間などの資源確保が必要なことだ。しかし、現実の TCP セッションでは事前に帯域や最大遅延時間を明確にすることは難しい。また、セッション開始前に資源予約することで、各セッションの通信開始が遅れることになる。実際の 運用面では課題が多く実現には至らなかった。トラフィックの少ない末端では IntServ 、トラフィックが集中するコア網では DiffServ (Differentiated Services:ディフサーブ) を使用し、 RSVP メッセージはコア網を通過する手法も提案されている。
Ethernet TSN の解決策
Ethernet TSN は、IntServ の適用を「ストリーム配信」に絞ることで課題を解決している。適用領域も自動車や工場の制御装置などの限られた領域であるため、スケーラビリティの問題は起きにくい。また、ストリーム(主に映像)は帯域や最大遅延要件も事前に明確になるため IntServ の考え方を持ち込むことが可能だ。しかし、RSVP は IP を前提としているため使えない。IEEE802.1Qat はこれらの課題を解決するために作成された。
RSVP 【Resource reSerVation Protocol】
頭文字語は素直に略せばRRPとなるが、随分と無理な略し方になっている。フランス語で招待 状などの末尾に書く常套句「R.S.V.P.(Réspondez s‘il vous plaît:お返事ください)」に合わ せたようだ。実際このフランス語が語源の「RSVP」を米国などの英語圏で使われているかシカ ゴ在住の知人に聞いてみたところ、こんな返事が返ってきた。日本語と口語の混在はご容赦い ただきたい。サンプル画像は5月の招待状だ。
Rsvp wa…for party usually.
Like “i invite u for bday party / wedding / bday shower / bridal shower / dinner banquet… please rsvp”
Don’t use RSVP in conversation much but see it used on invites frequently.
Ethernet TSN の起源は、Ethernet AVB (802.1BA – Audio Video Bridging (AVB) Systems)だ。AVB は、コンサートホールや玄人(オタク?)向け映像・音楽配信規格として2006年9月にスタートした。この時点で、802.1AS/802.Qat/802.Qav が議題に上っている。現在の Ethernet TSN QoS の根幹となる規格はここから始まった。Ethernet AVB 普及のため、 Avnu Alliance(アベニューアライアンス) が2009年に発足した。この活動に注目したのが自動車業界や産業用制御機器業界だ。これら業界の要望に応え、IEEE は 2012年に「 The Audio/Video Bridging Task Group 」を「 Time-Sensitive Networking Task Group」と改称し、TSN の新たな議論が始まった。これを契機に、自動車業界や IoT 業界との連携が進むことになる。業界の関係は、図2 のようになっている。ちなみに、現在 Avnu Alliance の対象市場は、自動車、業務用 AV、家庭用電化製品と産業用制御となっている。

第2層規格は、IEEE802.1 AVB から IEEE802.1 TSN に移管され強化された。第1層(物理層)規格は、 Broadcom 社が開発した BroadR-Reach を基に、100BASE-T1 (100Mbps)が決まり、RTPGE (Reduced Twisted Pair Gigabit Ethernet)を基に 1000BASE-T1 が決まった。現在は更に拡張され、 10Mbps から 10Gbps まで規格化が進んでいる。もちろん、Ethernet TSN の第2層規格は、物理層と独立しているため、従来のイーサネット物理層との接続が可能だ。
物理層のコネクタやケーブル類は、業界ごとに事情が異なる。このため、自動車や産業用制御機器などの業界団体や IEC などの関連規格団体との協議が続いている。車載版の給電システム PoE(Power over Ethernet)、 POF(Plastic Optical Fiber)や長距離伝送などの議論と規格化作業が続いている。別な機会で、物理層の動向や技術を紹介したい。
Ethernet TSN の QoS
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3-4.Ethernet TSN の QoS
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