イーサネットフレームの変更は久しぶりだ。1988年に IEEE802.1Q-1988 に VLAN が追加されて以来だ。VLAN 追加での一番の懸念事項は、フレーム長が4バイト長くなり長さ制限でフレームが廃棄される恐れがあることだった。VLAN 導入に当たり、IEEE は世界中のイーサネット機器を調査し、問題ないことを確認の上、規格を制定した。プリエンプションの場合は、フレームを分割し再構成するために分割フレームを識別する管理領域が必要になる。VLAN に比べはるかに大きな変更だ。管理領域には、フラグメントの順序(開始/継続1・・n/最終)を識別し、エラー検出が必要だ。もう一つ重要なことは、標準イーサネットとの互換性だ。今回の変更で IEEE は、イーサネット規格の範囲内で正しく動作することで、世界中の機器調査が必要ない方法で対応した。
プリエンプション規格は、IEEE802.1Qbu とIEEE802.3br の2つのワーキンググループで並行審議された。フレーム分割によりフレームの構成が変わるためイーサネットフレームを分担する IEEE802.3 が担当し、フレーム分割と再組立てが新たに追加されるため第2層ブリッジ(スイッチ)を分担する IEEE802.1 が担当した。この結果、プリエンプションは2つの規格で構成されることになった。
フレーム分割説明の前に、標準イーサネットのフォーマットを確認したい。図1 は VLAN 付きの標準イーサネットフレームの構造だ。緑の領域が物理層で処理する領域で、宛先MACアドレス以降が第2層(MAC層)で処理する領域だ。物理層で処理する領域は、12バイトのフレーム間ギャップ、クロック同期をとる7バイトのプリアンブルに続き、プリアンブルとデータ領域の区切りになる1バイトの SFD (Start Frame Delimiter)で終わる。プリアンブルのデータパターンは、 0x55(01010101)、SFD は 0xD5 (11010101)だ。
プリエンプションは、先頭の「物理層で付加される領域」と末尾の FCS を変更し、標準イーサネットとの互換性を維持し、フラグメント識別とエラー処理ができる方式だ。宛先MACアドレスから先のデータの領域には手を加えていない。
従来機器との互換性
イーサネットの強みの一つは、従来の機器との互換性を維持し続けてきたことだ。新たな機能としてプリエンプションを導入し、フレーム分割ができるようになった。しかし、プリエンプション機能を持たない従来機器と問題なく接続できなければならない。これを実現するために新たに2つのメッセージが追加された。「Verify」と「Response」だ。
プリエンプション機能を実装した機器は、全てのポートから「Verify」メッセージを送信し、「Response」メッセージを受信すると、このリンクではプリエンプション使用可能と判断し、受信できないとプリエンプション機能は使えないと判断する。図2 の例では、スイッチ1とスイッチ2の間のリンクは、相互に「Response」を受信した。プリエンプション機能を使い、フレームの分割送信ができる。他のリンクでは「Response」を受信できないため、プリエンプション機能は使えない。
従来のイーサネット機器が新たに追加された「Verify」と「Response」に問題なく対応できる理由は、フレーム構造にある。図3 が Verify と Response のフレーム構造だ。いずれのフレームもプリアンブルとデータ部との境界である SMD(SFD から名称変更)が標準イーサネットと異なる。標準イーサネット機器は Verify と Response のデータ部の始まりを認識できないため、ノイズとしてフレームを廃棄する。また、エラーチェック用の mCRC は標準イーサネットの FCS と形式が異なるため、仮にフレームを認識したとしても、エラーフレームとして廃棄する。いずれにしろ、標準イーサネット機器は、Verify と Response フレームを内部に取り込むことはなく、物理層で廃棄する。全く問題は起きない。物理層の仕様を逆手に取った巧妙な方法だ。
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