Ethernet TSN の狙いは明確だ。インターネットや各種クラウドサービスから、IoT の様々なデバイスまでをシームレスにカバーすることだ(図1 参照)。

しかし、Ethernet TSN が新たな産業用イーサネット陣営を作ることは考えにくい。EtherNet/IP、PROFINETやEtherCAT 等の既存の規格化団体は、IEEE802 の TSN 規格審議に参加し、 TSN 対応を進めている。PROFINET 陣営では、TSN 技術に対応した「 PROFINET OVER TSN」を発表し、顧客サポートの準備中だ(日本プロフィバス協会のサイト)。EtherCAT も Ethernet TSN 技術を使った EtherCAT 間接続のモデルを発表している( EtherCAT Technology Group のサイト)。Ethernet/IP は、Ethernet TSN に必要な LLDP 等のプロトコルの追加開発を発表している。EtherNet/IP 自身が標準イーサネットで構築されているため、大きな変更もなく TSN に対応できる状況だ。このように、既存の産業用イーサネットが TSN 技術を取り込み始めている。
図1 にはないが、「車載ネットワーク」もEthernet TSN が目指す市場だ。CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)との比較も含め、改めて話をしたい。
従来規格との互換性
Ethernet TSN は、標準イーサネットの拡張版だ。主な機能追加は第2層の IEEE802.1 で、物理層の拡張は、車載を意識した 100Mbps と 1000Mbps での2ワイヤー伝送路を追加した程度だ。Ethernet TSN は、当然だが上位層の TCP/IP 、下位層の物理層との互換性も維持している。もちろん従来からの、IEEE802.1 との整合性もとれている。
既存の産業用イーサネットメンバーも TSN の議論に参加し、可能な範囲で整合性と相互接続の作業が進められた。図2 のように、EtherNet/IP とPROFINET とは整合性が取れているが、EtherCAT は第2層の動作がかなり異なるため、十分な整合性が取れていない。

トポロジ
標準イーサネットはほぼ全てのトポロジをサポートしている。Ethernet TSN も、トポロジの制約はなく、全てのトポロジをサポートしている(図3)。産業用イーサネットの TSN 対応版については、各産業用イーサネットの推奨トポロジを参照いただきたい。

TSN 規格の全体像
Ethernet TSN の規格は時刻同期と帯域制御だけではない。時刻同期(Synchronization)、信頼性 (Reliability)、遅延(Latency)、資源管理(Resource management)の4つの分野に分類される規格群がある。図4 は代表的な規格だ。これらの規格は、2019年に一度取りまとめられたが、現在も規格改定の審議が続いている。

Ethernet TSN
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3.Ethernet TSN
Ethernet TSN(1)イーサネットの歴史〜 LAN と基幹網の主役になるイーサネット・フィールドネットワークの変遷
LAN と基幹網の主役になるイーサネット イーサネットは、登場以来競争の歴史だ(図1)。1980年2月 IEEE802 規格が正式に決まり、イーサネットは始まった。IEEE802 の名称はこの会議の開催日に由来する。登場 […] -
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Ethernet TSN(3)キーポイント:時分割多重の概要
Ethernet TSN のキーポイントは、サイクル時間や遅延時間に敏感な制御データ、伝送帯域に敏感な映像や音声などのストリーミングデータと再送を許容できる Best Effort データの混在を実現することだ。もちろん […] -
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【1】1マイクロ秒以下の時刻精度 時分割多重を実現するためには、スイッチなどの伝送装置や、システム構成によっては送受信ノードの時刻同期が必要だ。同じ時刻に全てのスイッチやノードが、一斉に時間帯を切り替えることで時分割多重 […] -
3.Ethernet TSN
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【2】BMCA/【3】クロックドメイン 通信機器やノードの時刻同期をとる前に、必要なことが2つある。時刻同期の基準時間となる「グランドマスタ(GM)」の選択と、時刻同期の配信経路を確定しクロックドメイン(時刻同期の範囲) […] -
3.Ethernet TSN
Ethernet TSN(6)時分割多重における時刻同期メカニズム
【4】第2層 PTP メッセージ/【5】Peer-to-Peer メカニズム/【6】2ステップクロック BMCA で時刻基準となる 「GM」 が決定し、時刻同期をとる領域である「クロックドメイン」と時刻情報の「配信経路」 […] -
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Ethernet TSN(7)GPS 四方山話!?
カーナビでおなじみの位置情報を提供する衛星を「GPS」とか「GPS衛星」と一般的には呼んでいる。しかし、GPS は米国が打ち上げた衛星のことだ。米国はいち早く、軍用や航空機・船舶等の航法支援用として衛星を打ち上げ、サービ […] -
3.Ethernet TSN
Ethernet TSN(8)時分割多重におけるプリエンプションの概要
工場や物流現場の様々な機械やロボットを期待通りに動かすためには「ハード・リアルタイム」が欠かせない。Ethernet TSN は、ハード・リアルタイムを実現する基本的な仕組みとして、時刻同期による時分割多重を導入した。一 […] -
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イーサネットフレームの変更は久しぶりだ。1988年に IEEE802.1Q-1988 に VLAN が追加されて以来だ。VLAN 追加での一番の懸念事項は、フレーム長が4バイト長くなり長さ制限でフレームが廃棄される恐れが […] -
3.Ethernet TSN
Ethernet TSN(10)プリエンプション機能追加と各フラグメント
プリエンプションは、分割した最初のフレームを「開始フラグメント」、その後に幾つかの「継続フラグメント」が続き、最後に「最終フラグメント」になる構造だ。開始/複数の継続/最終フラグメントを順序を含め識別するコードを埋め込み […] -
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Ethernet TSN(11)プリエンプション機能追加
開始フラグメント、継続フラグメントと最終フラグメントの構造はお話しした。開始フラグメントの SMD-Sx 、SMD-Cx とFragment Count の8ビットの不思議な数値について説明する。 SMD-Sx 図1 の […] -
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Ethernet TSN の QoS(1)IntServ(イントサーブ)
Ethernet TSN の QoS 体系での位置づけは図1 のようになっていて、優先制御と帯域制御を組み合わせることで、リアルタイム性を実現している。優先制御は SPQ(Strict Priority Queueing […] -
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Ethernet TSN の QoS(2)Ethernet AVB 登場
従来のアナログ AV 機器は、ほぼ全ての機器を 1対1 でケーブル接続することが常識だ。しかも、ケーブルやコネクタ規格はインタフェースごとに異なるため、オーディオ機器の背面には多くのコネクタがあり、様々なケーブルが這いま […] -
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Ethernet TSN の QoS(3)IEEE 802.1Qat:SRP / 配信手順
SRP(Stream Reservation Protocol:ストリーム予約プロトコル)は、ストリームの配信経路を確定し、経路上のスイッチやエンドステーション(映像表示装置など)の帯域確保と最悪時の遅延時間の確認を行う […] -
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Ethernet TSN の QoS(4)IEEE 802.1Qat:SRP / MSRP 動作とストリーム配信の可否判断
ネットワーク構成を単純化したモデルで、改めて MSRP の動作と Talker と Listener が送信する各種パラメータを説明したい。 図1 はMSRP 説明モデルで、次の要素からできている。全ての要素には MSR […] -
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Ethernet TSN の QoS(5)IEEE 802.1Qat:SRP / MSRP 属性
Asking、Advertise、Ready メッセージを交換することで、Talker/Listener 間の帯域や遅延時間などの QoS リソース確保を行うことはすでに説明した。これら以外にも、Talker/Liste […] -
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Ethernet TSN の QoS(6)その他時間帯の QoS:SPQ(絶対優先)
Ethernet TSN は、ハードリアルタイムが必要な工作機械などの制御データとその他のデータの時間帯を分けている。制御データが収まる「CDT専用時間帯」は、従来のフィールドバス同様に厳密なタイミングやデータ量設計を行 […] -
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CBS( Credit Based Shaper)の基本動作原理は、リーキーバケットモデルだ。図1 の様に、蛇口から注いだ水がバケツの穴から常に一定量漏れ出すモデルだ。さらに細かく分類すれば「 Leaky bucket […] -
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Ethernet TSN の QoS(8)全体動作検証
Ethernet TSN は、制御データを確実に伝送する「CDT 専用時間帯」と、プロトコル制御データ(gPTP、SRP 等)、映像ストリームやファイルなどの Best Effort データを伝送する「その他時間帯」に分 […]