Ethernet TSN は、ハードリアルタイムが必要な工作機械などの制御データとその他のデータの時間帯を分けている。制御データが収まる「CDT専用時間帯」は、従来のフィールドバス同様に厳密なタイミングやデータ量設計を行うことが前提になっている。特別な仕組みはないが、データ量やサイクル時間があらかじめ決まっているため、確実に通信品質(QoS)を守ることができる(図1)
これに対し「その他時間帯」は、SRP や gPTP などのプロトコルデータ、映像ストリームやファイル転送などの Best Effort トラフィックが混在する。その他時間帯のトラフィック量は刻々と変化し予測できない。また、映像ストリームはパケット廃棄や遅延に敏感でバースト性が強い。映像のバースト性を緩和し、帯域の確保と遅延の抑え込みが必要になる。「その他時間帯」での QoS を実現するために、2つの仕組みが用意されている。SPQ(Strict Priority Queueing:絶対優先)方式の優先制御とCBS(Credit Based Shaper) と呼ばれるリーキーバケットモデルの帯域制御だ。

SPQ と CBS を運用する上での遅延時間、優先度やフレーム間隔等が予め決められている。例えば、 CDT クラスの「CDT 専用時間帯」は、1 サイクル 500マイクロ秒以下、End to End (送信元から宛先まで)の遅延時間は 100マイクロ秒以下で、経由する第2層スイッチ段数は5段以下と規定されている。CDT クラスはこれらの規定に適合するようにフレーム長やフレーム数を設計する必要がある。
その他時間帯に属するトラフィックもフレーム間隔や End to End の遅延時間が決められている。例えば、SR クラスAの場合は、フレーム間隔がイーサネット最大長フレームよりわずかに長い 125 マイクロ秒以上で、End to End の遅延時間は 2 ミリ秒以下になっている。これらは、SRP などのプロトコルが帯域設定や遅延確認を行い、中継する第2層スイッチが制御する仕組みだ。詳しくはこの先でお話ししたい。
クラス | 転送時間 フレーム間隔 | End to End 遅延時間 | TSN 優先度 | スイッチ 最大Hop数 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
CDT クラス | 500μ秒以下 | 100μ秒以下 | 別格 | 5 | |
SR クラスA | フレーム間隔 125μ秒以上 | 2m秒以下 | 1 | 7 | クラスA/B合計が75%以下 |
SR クラスB | フレーム間隔 250μ秒以上 | 50m秒以下 | 2 | 7 | クラスA/B合計が75%以下 |
Protocol Control Traffic | ー | ー | 3 | 5 | gPTP/SRP 等 |
Best Effort | ー | ー | ー | ー |
SPQ(絶対優先)
Ethernet TSN では、IEEE802.1Q で決められている VLAN タグ付きフレームが前提になっている。VLAN タグには8段階の優先度があり、7 が最高優先度、 0 が最低優先度だ。スイッチは各優先度に対応した 8 個のキューを用意し、受信フレームは優先度に応じて対応するキューに格納される(図2)。この例では、SRP/gPTP プロトコルの優先度は「3」、映像ストリームの SR クラス AとBはそれぞれ「5」と「4」、特に制御が必要でない Best Effort トラフィックには「1」と「0」を割り当てている。

しかし、ここで問題が起きる。ネットワーク上では、AVB クラスAとクラスB のストリームには優先度5と4が割り当てられている。しかし、Ethernet TSN では、 SR クラスAが最高優先度、 SR クラスBが2番目の優先度で、 SRP やgPTP などのプロトコルデータが3番目の優先度だ。優先度の再マッピングと SPQ への割り当てが必要になる。図2 の構成を IEEE802.1Qav のルー ルで再マッピングしたものが表2 だ。
トラフィック | VLAN 優先度(7が最高優先度) | SPQ 優先度(1が最高優先度) ※再マッピング後 |
---|---|---|
SRP/gPTP プロトコル | 3 | 3 |
SR クラスA | 5 | 1 |
SR クラスB | 4 | 2 |
Best Effort-1 | 1 | 8 |
Best Effort-2 | 0 | 8 |
ここで注意が必要なのは、VLAN の優先度は7が最も高いが、SPQ の優先度は1が最も高い。
SPQ(絶対優先)に、再マッピング結果を当てはめたのが図3 になる。SPQ では、最高優先度キューにパケットがある限る送信権を取り続ける。下位優先度キューは上位優先度のキューにパケットがある限り、何も送信することができない。この欠点を補うため、AVB クラスA と B には、送信権を制限しバーストを抑制するCBS(Credit Based Shaper )がある。SRP や gPTP などの制御データには特別な仕組みは用意されていない。制御データは送信間隔が十分広くデータ量も僅かなため、帯域を占有することがないためだ。

SPQ により、SR クラスA>SR クラスB>プロトコルデータ>Best Effort の優先度でパケットを送信できるようになった。これだけでは、高優先度のSR クラスA/B がネットワークを占有し、バーストも解消できない。 CBS(Credit Based Shaper)と呼ばれる帯域制御を導入することで、帯域保障とバースト抑制を実現している。
SR クラスが帯域を占有しないための方策として、クラスA とクラスB の合計帯域がネットワーク全体帯域の 75% 以下になることが定められている。実際の運用では、MSRP で設定した属性値を基に帯域が設定される(下記帯域計算参照)。
帯域計算(MSRP 属性)
Stream Bandwidth=(Max Frame Size + OH)×Max Interval Frames ÷ Interval Time
計算例
- 100Mbps イーサネットで、SR クラスA ストリームのInterval time(125マイクロ秒)内で最大長フレームを0.1パケット送信した場合
- 「Max Frame Size + OH 」は、Byte→bit→時間 と換算する必要がある
Max Frame Size=1518Byte(物理層オーバーヘッドを除く) OH=24Byte
フレーム送信時間=1528+24 Byte → 12,336 bit → 123.36 μ秒
∴ (Max Frame Size + OH)時間換算値=123.36マイクロ秒
Max Interval Frames=0.1
Interval Time=125マイクロ秒
∴Stream Bandwidth=(123.36/125)×0.1×100Mbps=9.8688 Mbps
Ethernet TSN の QoS
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