車載ネットワーク(9)LINの規格概要

LIN規格

LIN(Local Interconnect Network)は、車載ネットワークのコストダウンを目的に、LIN コンソーシアムで策定された通信規格だ。LIN コンソーシアムは、欧州の自動車メーカや半導体メーカを中心とした団体だ。LIN 規格は1999年に発表され、数度にわたり規格が改定されている。現在は、LIN Rev 1.3/2.0/2.1 が主に使用されて、Rev 2.x に集約しつつあるところだ。LIN コンソーシアムとしては、バージョン 2.2A が最後だ。2013年に ISOに移管され、現在も改定が続いている(図1)。

LIN 規格改定の歴史
図1 LIN 規格改定の歴史

LIN は車載機器制御の CAN のサブバスとして位置づけられていて、徹底した低コスト化が特徴だ。 LIN 規格の初期バージョン仕様書には、位置づけを明確にした図が記載されている(図2)。

ノード当たりの相対コスト
図2 ノード当たりの相対コスト

LIN の適用分野

LIN は、「低コストな CAN のサブバス」という明確なコンセプトでスタートした。登場から20年以上経過し、車載ネットワークではデファクトスタンダードになった。しかし、車載分野以外には広がっていない。

LIN 産業分野適用領域
図3 LIN 産業分野適用領域

自動車制御での位置付け

自動車の安全性・快適性の向上や環境規制に対応するため、電子制御部品が増加している。自動車の電子制御化は、エンジンなどのパワートレイン制御、ステアリングやブレーキなどのシャシー制御だけではなく、パワーウィンドウ、ミラー調整、電動シート、ドアロックなどのボディー制御にも広がっている。ボディー制御電子化の広がりは、センサー類やECU(Electronic Control Unit)などの部品、ワイヤーハーネス(配線)の増加をもらした。これらの増加は、開発費、部材コスト、組立検査コストの増大を招き、車両重量も増加する。しかし、パワーウィンドウやミラー調整には、パワートレインに求められるような通信速度も信頼性も必要なく、CAN を採用する理由が見当たらない。

通信速度や信頼性を捨て、徹底した低コスト化や重量削減を実現するために作られたのが LIN 規格だ。実際の運用では、LIN は CAN バスのサブバス(下位のバス)となり、様々なセンサやアクチュエータ制御に使用されている(図4)。今や車の世界での「デファクトスタンダード」だ。使用例は下記の様に多岐に渡る。

ステアリング回りクルーズコントロール、ワイパー、空調、音響機器
快適装備温度センサー、サンルーフ、室内灯、空気清浄機
駆動系シフトポジション、速度計、油圧表示
エンジン回り冷却ファン
エアコンエアコン駆動系、エアコン制御
ドア回りドアミラー、ウィンドウ開閉、ドアロック
シート回り電動シート、着座センサー
その他ワイパー、雨滴センサ(自動ワイパー)、ヘッドライト
LINバスの位置付け
図4 LINバスの位置付け

LIN 規格概要

LIN バス規格は、Rev 1.x と Rev 2.x では微妙に異なるので注意が必要だ。LIN バス規格の主な仕様は次の通り(表1)。

項目仕様概要
ネットワーク構成マスタ/スレーブ構成
1台のマスタと最大16台のスレーブで構成
送信権マスタが常に送受信を制御。送信権の調停(Arbitration)はない
伝送路シングルワイヤ(1本)/最大長40m
個別の帰線はなく、共通GND
通信速度Rev 1.x:1kビット/秒~20kビット/秒。2400/9600/19200ビット/秒を推奨
Rev 2.x:1kビット/秒~20kビット/秒
通信方式半2重通信
スタートビット(1ビット)+ 8ビットデータ + 1 ストップビット
データ長1 ~ 8 バイトを選択
動作電圧12V(バッテリ電圧)
クロック同期方式フレームごとに受信データに同期補正
発振子精度水晶/セラミック振動子/RC発振器選択可能(マスタはRC発振器不可)
Rev 1.x:マスタ ±0.5%/スレーブ ±15%
Rev 2.x:マスタ ±0.5%/スレーブ ±14%
その他Wake up/Sleep機能
表1 LINバス規格概要

車載ネットワーク

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。