基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(12)「1000BASE-T1」符号変換 スクランブル/3B2T/PAM3 変換

3B2T/PAM3

次に、3B2T/PAM3 変換の手順を説明する。

図1 1000BASE-T1 符号化処理」は、3B2T/PAM3 の一連の信号変換の例だ。伝送クロックは 750MHz で、GMII の 125MHz とは異なる(125MHz × 6=750MHz)。この辺りの事情は RS FEC を追加したためだ。

図2 1000BASE-T1 符号化処理
図1 1000BASE-T1 符号化処理

伝送クロック 750MHz 2サイクルで 3ビット情報を送るため、3ビット情報を 2つの 3値情報に変換する。これが 3B2T 変換になる。 3ビット情報は全部で 8通り(=23)あり、「図2 1000BASE-T1 3B2T 変換図」の様に 2 つの 3 値情報は全部で 9 通り(=32)ある。 3 ビット情報を 2 つの 3 値情報に変換すれば、全てを表現し 1 つ余ることになる。 3 値情報は +1 V/0 V/-1 V で表現し、 3 ビット情報と 2つの 3値情報の対応は「表1 1000BASE-T1 3B2T 変換表」のようになる。余った [0:0] は、フレームの開始と終了を示す区切りコードに使われる。

図6 1000BASE-T1 3B2T 変換
図2 1000BASE-T1 3B2T 変換
表2 1000BASE-T1 3B2T 変換表
表1 1000BASE-T1 3B2T 変換表

図3 1000BASE-T1 3B2T 変換例」は、3ビット情報 [101] と [001] が「表1 1000BASE-T1 3B2T 変換表」に従い 2 つの 3 値情報に置き換わり、 PAM3 信号に置き換わる例だ。

図7 1000BASE-T1 3B2T 変換例
図3 1000BASE-T1 3B2T 変換例

ここで注意点が 1つある。理由は分からないが、100BASE-T1 と 1000BASE-T1 の 3B2T 変換表が異なる。

スクランブラ

スクランブラは 100BASE-T1/1000BASE-T と同じ構造になっている。違いはキーストリームの長さと LFSR のフィードバックポイントの2つだ。

スクランブラへの入力を平文ストリーム(Plaintext Stream)と呼ぶ。スクランブラは平文ストリームとキーストリーム(Key Stream)の演算を行い、暗号文ストリーム(Ciphertext Stream)を作る( 「図4 スクランブラの構造」 )。演算は一般的な EXOR(Exclusive or:排他的論理和)だ。キーストリームの生成には、LFSRLinear Feedback Shift Register :線形フィードバックレジスタと呼ばれる仕組みを使用する。この仕組みはハードウェアで簡単に安く作れるため、放送や通信などの様々なところで使われている。

図4 スクランブラの構造
図4 スクランブラの構造

LFSR は平文ストリームが分かると簡単にキーストリームを解読できる。フレーム間ギャップの「Idle」状態では常に「1」が連続することが分かっているため解読は容易だ。

1000BASE-T1 の LFSR は 15 ビット長だが、キーストリーム生成は「図5 15 ビット長 Master/Slave キーストリーム生成」の構造になっている。先ず、ランダムなキーストリームを発生させるために15 ビット2進数の「種(Seed)」を「Seed」に設定する。設定値は特に制約は無いがオール「0」を設定するとキーストリームに変化がなくランダム化できない。「種」は Master が決定し Slave に伝えることで送受信が一致するようになる。

図5 15 ビット長 Master/Slave キーストリーム生成
図5 15 ビット長 Master/Slave キーストリーム生成

「Master Scrambler」はクロックマスタが送信し、スレーブが解読する。「Slave Scrambler」はクロックスレーブが送信し、マスタが解読する。 1 対の信号線で送信と受信が混在するため、生成コードは変わっているが動作原理は変わらない( 「図6 1000BASE-T1 スクランブラ」参照) 。 LFSR の基本動作は、「100BASE-T1 スクランブラ」を参照いただきたい。

図6 1000BASE-T1 スクランブラ
図6 1000BASE-T1 スクランブラ

1000BASE-T1 では、リンク接続されたノード間でクロック同期を取るために「クロックマスタ」の選択が必要になる。この機能は接続ノード間でクロック同期を取り、両者のクロック周期や位相ズレを無くすことが目的だ。1000BASE-T1 では、送信信号と受信信号を Hybrid 回路で分離合成する。分離合成する際に送信と受信でクロック周波数や位相がズレていると分離できないためだ。クロックマスタの選択は、リンク確立時のオートネゴシエーションで決定する。

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この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。