基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(13)「1000BASE-T1」OAM / フレーム構造 / 上位層制約事項

OAM

OAMOperation / Administration / Maintenance)は、送信側 PHY と受信側 PHY がお互いの PHY リンクの健全性ステイタスを交換するために使用する。OAM は 12個の 9ビットシンボルで構成されるが、通常時は最初の 1個の 9ビットシンボルのみを交換する。

OAM フレームの全体構造は「表3 OAM フレーム構造」をご覧いただきたい。フレームデータの表記は OAM となり、フレームシンボル、ビット を表す。また、Reserved には「0」が入る。

Ping RX
Ping RX は OAM<0><3>と表記する。PHY によってリンク パートナーから受信した Ping TX ビットと同じ値に設定される。
Ping TX
Ping TX は OAM<0><2> と表記する。送信側 PHY が送信する。
PHY Health
PHY ヘルス (SNR<1:0>)は OAM<0><1:0> と表記する。受信機の状態を示すために受信側 PHY が設定する。

00:PHY リンクは停止している。OAM フレーム終了後 2 ~ 4ミリ秒以内にリンクを切断し、再度リンクする
01:リンクパートナーにアイドル送信を要求( EEE 有効時のみ)
10:限界状態

フレーム構造

物理層のフレーム構造は 100BASE-T1 と同じ構造になっている。基本的に同じ変換コードを使用するため、フレームの開始と終了を検出する「区切りコード」も変わらない。

フレームの開始を示す区切りコードSSDStart of Stream Delimiter )は、PAM3 信号の [0 0][0 0][0 0] と 3B2T コードの未定義コードを3回繰り返す。この開始区切りコードの後に Ethernet フレームのプリアンブルが続く。ただし、SSD を追加したためプリアンブルは1バイト分短縮される。この辺りも 100BASE-T1 と変わらない。

フレームの終了を示す区切りコード(ESDEnd of Stream Delimiter)は2種類ある。正常フレームの場合は PAM3 信号の [0 0][0 0][+1 +1] の3つのコードを送信する。エラーフレームの場合は PAM3 信号の [0 0][0 0][-1 -1] の3つのコードを送信する。終了区切りコードの直前に Ethernet フレームの FCS フィールドがあり、終了コードの後にはフレーム間ギャップが連続送信される( 「図1 1000BASE-T1 物理層フレーム構造」 )。

図1 1000BASE-T1 物理層フレーム構造
図1 1000BASE-T1 物理層フレーム構造

上位層制約事項

TCP の最大セグメントサイズ( MSSMaximum Segment Size)は、 TCP ヘッダ長を含まない 1セグメントで転送できるデータの最大長だ。MSS の理論最大長は 64K バイトだが、Ethernet 上の TCP では 1460 バイト以下になる( 「図2 Ethernet フレーム」参照)。

図2 Ethernet フレーム
図2 Ethernet フレーム

IP の最大パケットサイズ(MTUMax Transfer Unit)は、IP ヘッダを含めた最大長だ。MSS に TCP ヘッダ長と IP ヘッダ長を加えた長さが MTU 以下であれば、IP 層でパケットを分割せずに送信することができる。例えば、 MTU=1500 バイトで、 MSS=1460 バイトであれば、IP と TCP ヘッダ各 20 バイトを加算すると、1500 バイトになり分断せずに送信することができる。

一般的には、MTU から 40 バイト引いた値に MSS を設定することが多い。しかし、リードソロモン訂正符号を追加すると状況が変わる。リードソロモン訂正符号は、450 バイト単位で訂正符号を作るため、Ethernet ペイロードの中には最大 3 個のリードソロモン符号を作ることができる。Ethernet のペイロード長としては 1350 バイトになる。これを超えるとリードソロモン符号を作ることができない。

つまり、一般的には Ethernet ペイロードは 1500 バイトとして MTU/MSS を設定するが、リードソロモン訂正符号を追加する場合は、Ethernet ペイロードを 1350 バイトとして設定する必要がある。

基礎から学ぶ車載 Ethernet

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。