1000BASE-T1 登場の背景
2015年に 100BASE-T1 の標準化が完了したが、当時から 100Mbps では帯域不足との指摘があった。主な理由はカメラ映像の伝送だ。既に実用化された 100BASE-T1 ではそれなりのカメラ映像対応を取っているが、ユーザ要求には限りがない。カメラの解像度を上げる、1秒間のフレーム数を増やす、カラー映像の分解能を上げる、などの要求が次々と出される。
100BASE-T1 に半年程度の遅れで IEEE802.3bp として 1000BASE-T1 は登場した。基本的な仕様は先行した 100BASE-T1 とほぼ同じだ。OPEN Alliance (One-Pair Ether-Net Alliance ) が当時設定した次のような仕様をほぼ引き継ぎ、新たにケーブル長 40m 以上が追加になっている。
- 1対シールドなし撚対線(1 pair UTP)
- 全2重/1000Mbps
- ケーブル15m 以上・・・・新たにケーブル長 40m 以上を追加
1000BASE-T1 は、自動車や産業用機器に必要な EMC や温度などの環境要件を満たし、1Gbps 全2重通信を 1対の撚対線を介して動作する通信方式だ。2つの接続形態がある。 1つは、15m 以上の非シールド平衡銅線ケーブル(UTP)を使用し、最大 4 個のインラインコネクタが使用できる自動車用リンクセグメント(リンクセグメントタイプ A) だ。もう 1 つのリンクセグメントは、 40m 以上の非シールド平衡銅線ケーブル(UTP)を使用し、最大 4 個のインラインコネクタが使用できる産業用機器、オートメーション機器や輸送機(航空機、鉄道、バス、大型トラック等)用リンクセグメントだ(リンクセグメントタイプ B)( 「図1 1000BASE-T1 リンクセグメントタイプ A/B」 )。

1000BASE-T1 はワイヤーハーネスを削減するため、IEEE802.3bu で規定される PoDL ( Power over Data Lines)と呼ばれる信号線給電にも対応している。1対(2本)の信号線で、双方向通信と給電を行うことで、ワイヤーハーネスの軽量化と省スペース化を実現している。定格インピーダンスは汎用 Ethernet の 2 倍の 100Ωだ。この点も、100BASE-T1 と変わらない。
1000BASE-T1 概要
1000BASE-T1は 1対の撚対線を介して 1000Mbps 双方向通信ができる物理層規格だ。ケーブル長は少なくとも15mで、4個の中継コネクタ(インラインコネクタ)を介してノード間を接続することができる( 「図1 1000BASE-T1 リンクセグメント」 )。定格インピーダンスは 100Ωで、汎用 Ethernet の2倍だ。
1000BASE-T1 は、IEEE802.3bp として 2016年標準化された。ワイヤーハーネスを削減するため、IEEE802.3bu で規定される PoDL ( Power over Data Lines)と呼ばれる信号線給電にも対応している。1対(2本)の信号線で、双方向通信と給電を行うことで、ワイヤーハーネスの軽量化と省スペース化を実現している。
符号化は汎用 Ethernet の 1000BASE-T とは異なり互換性がない。1000BASE-T1 の符号化は、80B81B(80bit to 81bit)変換、RS FEC 付加、スクランブル処理、3B2T(3bit to 2-ternary)変換を順次処理し PAM3(Pulse Amplitude Modulation 3-level)シンボルに変換し、基準クロック 750MHz のデータレートで 1000Mbps の伝送速度を実現している。シンボルレートは 375Mbps だ。
1000BASE-T1 の物理層は、PCS/PMA/PMD の3つの副層のみ規定しているだけだ( 「図2 1000BASE-T1 物理層副層」 )。規格上、第2層とのインタフェースは GMII のみが規定されているが、市販されている物理層デバイスでは様々な xMII をサポートしている。

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