解説対象規格
Ethernet は40年以上に渡り規格が追加・修正された歴史がある。10Mbps の 10BASE5 から始まり、400Gbpsまで拡張されている。車載ネットワークを対象とする 10Mbps から1000Mbps SPE 規格に絞り解説する(青枠内)。


改めて整理すると今回の解説対象は「表3 解説対象規格一覧」青枠内の3種類だ。

物理層副層
Ethernet の物理層は複数の「副層」で構成されている。初期の Ethernet は、符号変換を行う「PLS:Physical Layer Signaling」副層と、同軸線に対応した電気信号に変換する「PMA:Physical Medium Attachment」副層の2つの副層で物理層を構成していた( 「図1 10Mbps と 100Mbps 以上の物理層構成」(a) 」。符号変換は「埋込クロック同期」を実現するために、クロックを確実に取り出せる方式が採用された。当時は 10BASE5 のみで様々なバリエーションに対応する必要がなく、このようなシンプルな構成になった。
100Mbps 登場以降は状況が変わった。「図1 10Mbps と 100Mbps 以上の物理層構成(b)」をご覧いただきたい。伝送速度に応じた様々な MII の登場により、各種 MII の違いを吸収する「RS:Reconciliation Sublayer」副層が必要になった。伝送速度も 100Mbps から 400Gbps へと拡張された。「埋込クロック同期」の要件も厳しくなり様々な符号化技術が登場する。符号化を行う副層は「PCS:Physical Coding Sublayer」と名前を変えるが、10BASE5 の「PLS:Physical Layer Signaling」と同等だ。次に、将来に備えてフレーム単位でエラー訂正が可能な「FEC:Forward Error Collection」副層が規定された。この副層はオプション扱いで、汎用 Ethernet では実装されていない。車載ネットワーク(1000BASE-T1)では FEC 機能が実装されている。
10BASE5 では物理層に対応した電気信号への変換を「 PMA:Physical Medium Attachment」副層で実行していたが、100Mbps 以降は2つの副層に分割された。100Mbps 以降の符号変換はバイト等の複数ビット列を変換し、エラー訂正機能 FEC も複数ビット列からエラー訂正コードを作る。この複数ビット列(パラレル)データをシリアルデータに変換する「PMA:Physical Medium Attachment」副層に加え、「PMD:Physical Medium Dependent」が追加された。PMD はシリアル変換されたデータ列を通信媒体に対応した電気信号や光信号に変換する副層になる。
撚対線で接続された機器間で、通信速度や半2重/全2重通信などの様々な通信パラメータを自動設定する機能が追加された。これを オートネゴシエーション(Auto-Negotiation)と呼ぶ。「AN:Auto-Negotiation」は、この機能に対応した副層だ。AN もオプションになっている。
Ethernet 原形の 10BASE5 のシンプルな階層構造から将来も見据えた階層構造へと機能が追加されたが、基本構造としては FEC と AN が追加されただけだ。100Mbps 以降の物理層副層と上位層(第2層)の概要は「表4 物理層副層一覧」と「物理層副層の定義(IEEE802.3u)」を参照いただきたい。

物理層副層の定義(IEEE802.3u)
- 100BASE-X PCS 副層(物理符号化副層)
- PCS 副層とRS 副層間のインタフェースは MII
- MII が要求する下記サービスを提供する
- (1) MIIデータの符号化(4B5B 変換)
- (2) キャリア検知や衝突検知
- (3) 下位副層の PMA 副層にシリアルデータを渡す
- (4) 上位の MII と下位の PMA との調整
- 100BASE-X PMA 副層(物理媒体アタッチメント副層)
- 物理媒体の仕様を支援する中間副層。リピータ機能も提供する
- 下記機能を実行する
- (1) 上位副層と下位副層間のコードビットの対応付け
- (2) 上位層への下位層(PMD)の有効性を知らせる。AN(Auto-negotiation)と同期をとる
- (3) 下位層(PMD)のキャリ検知、キャリアエラー検知
- (4) 受信エラーの検知
- (5) 下位層(PMD)の NRZI 符号からクロック抽出
- 100BASE-X PMD 副層(物理媒体依存副層)
- 100BASE-X シグナリングは、FDDI シグナリング標準 ISO/IEC 9314-3:1990 及び ANSI X3.263-1996 に従う。これらの PMD 副層のシグナリング標準は、マルチモード光ファイバー、STP 及び UTP 配線に対応し 125Mbps 、全2重シグナリングシステムを規定している
ケーブルやコネクタ類も「 Ethernet 物理層」として説明することが一般的だが、ケーブルやコネクタ規格は IEEE802.3 の対象外だ。ISO/IEC 等の規格化団体や業界団体でケーブルやコネクタの規格化が行われている。
車載ネットワーク物理層(10BASE-T1S/100BASE-T1/1000BASE-T1)では、物理層副層を変更していない。基本構造を変えず車載ネットワークに適合するため EMI 対応が強化されている。具体的には、信号周波数を下げるため符号変換方式を変更している。
基礎から学ぶ車載 Ethernet
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4-4.基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術
基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(1)車載 Ethernet 物理層
概要 Ethernet を底辺で支えているのが物理層だ。物理層の基本機能は、0と1で表現されるデジタルデータを電気信号や光パルスに変換し媒体を介して通信することだ。OSI 階層では最下層に相当する。第2層以上の論理層と最 […] -
4-4.基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術
基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(2)SPE( Single twisted Pair Ethernet )
SPE( Single twisted Pair Ethernet ) 従来の汎用 Ethernet は、RJ45 コネクタと 2対または 4対の UTP ケーブルで機器間を 1対1 接続するトポロジを採用している。車載 […] -
4-4.基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術
基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(3)物理層規格
解説対象規格 Ethernet は40年以上に渡り規格が追加・修正された歴史がある。10Mbps の 10BASE5 から始まり、400Gbpsまで拡張されている。車載ネットワークを対象とする 10Mbps から1000 […] -
4-4.基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術
基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(4)「10BASE-T1S」 概要
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4-4.基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術
基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(5)「10BASE-T1S」 4B5B/DME/PAM2 変換 / フレーム構造
4B5B/DME/PAM2 変換 汎用 Ethernet の 10BASE5/2/-T は、伝送路上のフレーム間ギャップは無信号状態になっている。これは、1本の伝送路を複数ノードで共有する方式のため、信号の衝突を避けるた […] -
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基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(6)「10BASE-T1S」 PLCA
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基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(7)「100BASE-T1 」概要
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基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(8)「100BASE-T1 」4B3B/3B2T/PAM3 変換 / フレーム構造
4B3B/3B2T/PAM3 変換 初期の 10BASE5/2/-T は、伝送路上のフレーム間ギャップは無信号状態になっている。これは、1本の伝送路を複数ノードで共有するバス方式のため信号の衝突を避けるためにはデータを送 […] -
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基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(9)「100BASE-T1 」スクランブラ
スクランブラ スクランブラは、100BASE-T1 が動作時にコネクタやケーブルから放射する妨害波(EMI)を抑えるために実装された機能だ。電磁妨害波が他の機器の誤動作を引き起こすため、米国の FCC や日本の VCCI […] -
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基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(10)「1000BASE-T1」概要
1000BASE-T1 登場の背景 2015年に 100BASE-T1 の標準化が完了したが、当時から 100Mbps では帯域不足との指摘があった。主な理由はカメラ映像の伝送だ。既に実用化された 100BASE-T1 […] -
4-4.基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術
基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(11)「1000BASE-T1」符号変換の概要 80B81B / RS FEC
初期の 10BASE5/2/-T は、伝送路上のフレーム間ギャップは無信号状態になっている。これは1本の伝送路を複数ノードで共有するバス方式のため、信号の衝突を避けるにはデータを送信していない期間を無信号にする必要がある […] -
4-4.基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術
基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(12)「1000BASE-T1」符号変換 スクランブル/3B2T/PAM3 変換
3B2T/PAM3 次に、3B2T/PAM3 変換の手順を説明する。 「図1 1000BASE-T1 符号化処理」は、3B2T/PAM3 の一連の信号変換の例だ。伝送クロックは 750MHz で、GMII の 125MH […] -
4-4.基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術
基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(13)「1000BASE-T1」OAM / フレーム構造 / 上位層制約事項
OAM OAM(Operation / Administration / Maintenance)は、送信側 PHY と受信側 PHY がお互いの PHY リンクの健全性ステイタスを交換するために使用する。OAM は 1 […]