基礎から学ぶ車載 Ethernet 技術(2)SPE( Single twisted Pair Ethernet )

SPE( Single twisted Pair Ethernet )

従来の汎用 Ethernet は、RJ45 コネクタと 2対または 4対の UTP ケーブルで機器間を 1対1 接続するトポロジを採用している。車載ネットワークでは、ワイヤーハーネスの軽量化と省スペース化のため 1対の UTP ケーブルが採用された。従来の Ethernet と比較し、信号線本数は 1/4 、1本当たりの重量は約 1/2 になり、1回線当たりの重量は 1/8 に軽量化された。

「シングルペア電気通信ケーブルインフラストラクチャ規格」は、IEEE802.3 と TIA-TR42 の2つの規格グループが共同で開発に当たり、SPE ケーブル類を一括して規格化している。IEEE802.3 は物理層の電気信号や光信号への信号変換までが分担領域で、ケーブルやコネクタは TIA/EIA や業界団体が分担するため、両者の共同作業になった。

SPE トポロジは 1対1(Point to Point)接続が基本だ( 「図1 SPE トポロジ」 )。10BASE-T1S では例外的に 1対多(Point to Multipoint)接続を使用することができる。10BASE-T1S の 1対多トポロジは、既存の CAN/LIN を置き替えるため ECU の配下に複数のデバイスをバス接続する構成になっている。 SPE は信号線で給電を行う PoDLPower over Data Line)をサポートしているが、10BASE-T1S の 1対多通信ではサポートしていない。この点は注意が必要だが、利便性を考えれば 1対多通信にも PoDL の機能が欲しいところだ。現在も、IEEE ではバス接続(Multi Drop)での給電、台数や距離の拡張議論が続いている。

図1 SPE トポロジ
図1 SPE トポロジ

図2 基本リンクセグメント」のリンクセグメントは、車載リンクセグメントとして規格化された 10BASE-T1S(802.3cg)/100BASE-T1(802.3bw)/1000BASE-T1(802.3bp)/2.5G-5G-10G(802.3ch)に適用される規約だ。一般的な乗用車を想定した規格で、少なくとも 15m 、最大 4 個の In-line(中継)コネクタと機器に接続される Mating コネクタ2個で構成される。

図2 基本リンクセグメント
図2 基本リンクセグメント

1000BASE-T1 には 2種類のリンクセグメントが規定されている。1つは「図2 基本リンクセグメント」 の少なくとも 15m のリンクセグメントで、もう一つが「図3 1000BASE-T1 Bタイプ リンクセグメント」の少なくとも 40m のリンクセグメントだ。このリンクセグメントは「Bタイプ」と呼び、航空機・鉄道・バス・トラックなどの伝送距離が長い用途向けだ。中継コネクタの最大数と機器接続用コネクタは「図2 基本リンクセグメント」と同じだ。

図3 1000BASE-T1 Bタイプ リンクセグメント
図3 1000BASE-T1 Bタイプ リンクセグメント

10BASE-T1L は車載用途ではなく、狙いはコンビナートなどの産業用途だ( 「図4 10BASE-T1L リンクセグメント」 )。例えば、石油コンビナート等のセンサ情報収集や制御用途を想定している。リンクセグメントの長さは少なくとも 1000m で、中継コネクタは最大 10個だ。石油コンビナート等の防爆エリアでの使用を想定しているため、IEC60079 の防爆基準に適合する給電方式等が規定されている。

図4 10BASE-T1L リンクセグメント
図4 10BASE-T1L リンクセグメント

図5 10BASE-T1S マルチドロップリンクセグメント」のリンクセグメントは、車載リンクセグメントとして規格化された 10BASE-T1S(802.3cg)マルチドロップ(1対多通信)に適用される規約だ。バスケーブル総長は 25m でバス線からノードまでのスタブ長は 10cm 、最大 8台のノードをバス接続できる。バス構成のため半2重通信になり、送信権はPLCAPhysical-Layer Collision Avoidance:物理層衝突回避)と呼ぶラウンドロビン調停方式が採用されている。PLCA が実装されない場合は、従来の CAMA/CD 方式で衝突検出を行うこともできる。10BASE-T1S のマルチドロップの狙いは LIN の置き換えではないかと推測している。この場合、複雑でコストアップの可能性がある PLCA ではなく、安価な従来の CSMA/CD が使われる可能性もある。

図5 10BASE-T1S マルチドロップリンクセグメント
図5 10BASE-T1S マルチドロップリンクセグメント

給電方式も PoDLPower over Data Line) として 1対 UTP ケーブルに対応した方式が新たに規格化された。PSE(給電装置)から1対撚対線で受電装置 PD(受電装置)に 1対1 で給電する( 「図6 ポイント to ポイント給電」 )消費電力に応じてクラス1~4 がある( 「表1 クラス別 ポイント to ポイント電力要件」 )。汎用 Ethernet の給電方式 PoEPower over Ethernet)は、50v 電圧を2対または4対の撚線対に印加する方式だが、PoDL は1対の撚線対に 12v/24v/48v の何れかの電圧を印加する方式になった。PoDL 給電の具体例は「図7 ポイント to ポイント給電例」だ。

図6 ポイント to ポイント給電
図6 ポイント to ポイント給電
表1 クラス別 ポイント to ポイント電力要件
表1 クラス別 ポイント to ポイント電力要件
図7 ポイント to ポイント給電例
図7 ポイント to ポイント給電例

従来の PoE の概要は「表2 PoE タイプ」 「表3 PoE クラス」 「表4 PoE 給電ピン」を参照いただきたい。従来の PoE と車載 PoDL の構造上の違いは、「図8 PoE と PoDL 構造」を参照いただきたい。PoE は 2 対の撚対線が基本で、PoDL は 1 対の撚対線が対象になっている。

表1 PoE タイプ
表2 PoE タイプ
表2 PoE クラス
表3 PoE クラス
表3 PoE 給電ピン
表4 PoE 給電ピン
図8 PoE と PoDL 構造
図8 PoE と PoDL 構造

基礎から学ぶ車載 Ethernet

この記事を書いた人

岩崎 有平

早稲田大学 理工学部 電子通信学科にて通信工学を専攻。
安立電気(現 アンリツ)に入社後、コンピュータ周辺機器の開発を経てネットワーク機器の開発やプロモーションに従事する。
おもにEthernetを利用したリアルタイム監視映像配信サービスの実現や、重要データの優先配信、映像ストリームの安定配信に向けた機器の開発行い、Video On Demandや金融機関のネットワークシステム安定化に注力した。
現在は、Ethernetにおけるリアルタイム機能の強化・開発と普及に向けて、Ethernet TSNの普及活動を行っている。