3B2T/PAM3
次に、3B2T/PAM3 変換の手順を説明する。
「図1 1000BASE-T1 符号化処理」は、3B2T/PAM3 の一連の信号変換の例だ。伝送クロックは 750MHz で、GMII の 125MHz とは異なる(125MHz × 6=750MHz)。この辺りの事情は RS FEC を追加したためだ。
伝送クロック 750MHz 2サイクルで 3ビット情報を送るため、3ビット情報を 2つの 3値情報に変換する。これが 3B2T 変換になる。 3ビット情報は全部で 8通り(=23)あり、「図2 1000BASE-T1 3B2T 変換図」の様に 2 つの 3 値情報は全部で 9 通り(=32)ある。 3 ビット情報を 2 つの 3 値情報に変換すれば、全てを表現し 1 つ余ることになる。 3 値情報は +1 V/0 V/-1 V で表現し、 3 ビット情報と 2つの 3値情報の対応は「表1 1000BASE-T1 3B2T 変換表」のようになる。余った [0:0] は、フレームの開始と終了を示す区切りコードに使われる。


「図3 1000BASE-T1 3B2T 変換例」は、3ビット情報 [101] と [001] が「表1 1000BASE-T1 3B2T 変換表」に従い 2 つの 3 値情報に置き換わり、 PAM3 信号に置き換わる例だ。

ここで注意点が 1つある。理由は分からないが、100BASE-T1 と 1000BASE-T1 の 3B2T 変換表が異なる。
スクランブラ
スクランブラは 100BASE-T1/1000BASE-T と同じ構造になっている。違いはキーストリームの長さと LFSR のフィードバックポイントの2つだ。
スクランブラへの入力を平文ストリーム(Plaintext Stream)と呼ぶ。スクランブラは平文ストリームとキーストリーム(Key Stream)の演算を行い、暗号文ストリーム(Ciphertext Stream)を作る( 「図4 スクランブラの構造」 )。演算は一般的な EXOR(Exclusive or:排他的論理和)だ。キーストリームの生成には、LFSR(Linear Feedback Shift Register :線形フィードバックレジスタ)と呼ばれる仕組みを使用する。この仕組みはハードウェアで簡単に安く作れるため、放送や通信などの様々なところで使われている。
LFSR は平文ストリームが分かると簡単にキーストリームを解読できる。フレーム間ギャップの「Idle」状態では常に「1」が連続することが分かっているため解読は容易だ。
1000BASE-T1 の LFSR は 15 ビット長だが、キーストリーム生成は「図5 15 ビット長 Master/Slave キーストリーム生成」の構造になっている。先ず、ランダムなキーストリームを発生させるために15 ビット2進数の「種(Seed)」を「Seed」に設定する。設定値は特に制約は無いがオール「0」を設定するとキーストリームに変化がなくランダム化できない。「種」は Master が決定し Slave に伝えることで送受信が一致するようになる。

「Master Scrambler」はクロックマスタが送信し、スレーブが解読する。「Slave Scrambler」はクロックスレーブが送信し、マスタが解読する。 1 対の信号線で送信と受信が混在するため、生成コードは変わっているが動作原理は変わらない( 「図6 1000BASE-T1 スクランブラ」参照) 。 LFSR の基本動作は、「100BASE-T1 スクランブラ」を参照いただきたい。

1000BASE-T1 では、リンク接続されたノード間でクロック同期を取るために「クロックマスタ」の選択が必要になる。この機能は接続ノード間でクロック同期を取り、両者のクロック周期や位相ズレを無くすことが目的だ。1000BASE-T1 では、送信信号と受信信号を Hybrid 回路で分離合成する。分離合成する際に送信と受信でクロック周波数や位相がズレていると分離できないためだ。クロックマスタの選択は、リンク確立時のオートネゴシエーションで決定する。
基礎から学ぶ車載 Ethernet
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